ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第65話>ピルの認可に慎重審議を要望
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫
1998年2月27日、「エコロジーと女性」ネットワークの吉田由布子代表が中央薬事審議会の内山充会長宛てに、掲題の要望書を提出している。具体的内容は以下の3点。
- 臨床試験中および服用終了後の妊娠について
治験中の妊娠例が17例あるが、妊娠判明まで妊娠初期にピルを服用し続けている。しかし、うち13例では妊娠判明後の経過について触れられていない。服用終了後の妊娠・出産した際の胎児への影響が調査されていない。即刻追跡調査をすべきだ。
これは、胎児期における内分泌攪乱化学物質の暴露の影響は甚大で、出生時に「正常」と見られても、その子どもが生殖年齢に達した頃に、女性の腟がんや生殖器の病気、男性の生殖器や生殖能力の異常が現れてくると主張。追跡調査を要求している。
- 試験記録の解析について
不正出血を副作用に含むものと含まないものがあり、その判断によって副作用の発現率は当然変わってくる。また、臨床試験のうち、血液凝固系や耐糖能の検査の症例数は全解析対象数と比べて少な過ぎはしないか。
- 環境への影響について
内分泌攪乱化学物質問題は、現在その深刻さはいっそう増しており、次々と新しい研究や事実が明らかになってきていると強調。英国では川魚に雌雄同体の魚が発見されていることから、98年1月22日英国環境庁のプレスリリースとして、環境中に入ってきている内分泌攪乱化学物質の量を最小にするよう工業界に行動を起こすようにとの要請を発表している。ピルに使用されているエチニール・エストラジオールは実験室において1リットル中1ナノグラム未満の低濃度で雄の魚のビテロゲニン(*)値を上昇させるほどの強力な物質である、そのエストロゲン作用は自然のエストロゲンの10倍から100倍にもなることが英国環境庁の実験で明らかになっている。自然のものについても「排水中の自然のホルモンのレベルが魚の雌化を起こさせるのに十分な場合が見つかった」(同プレスリリース)として、英国では排水中の自然ホルモンレベルを下げる技術の開発が目指されている。ピルについても研究が続けられると聞いており、この内分泌攪乱化学物質については今後解明されなければならない問題が山積していると指摘。
この要望書が、その後の審議にどのような影響を及ぼしたかは知る由もないが、その直後3月2日に開催された中央薬事審議会常任部会での結果を踏まえて、3月3日付け読売新聞では、「ピル解禁、大幅先送り」、時事通信ニュース速報では「危険性調査の実施決めるー厚生省」との記事が掲載された。
(*)卵黄タンパクの前駆物質と呼ばれるタンパク質のこと。