第62話で書いたように、「ピル、環境ホルモン説」の情報源である英国からの回答を得たことで勇気をもらった筆者は、それに異論を唱えるべく、高久文麿自治医科大学学長、水沼英樹群馬大学医学部産婦人科助教授、坂元正一日本母性保護産婦人科医会会長、水口弘司横浜市立大学医学部産婦人科教授、そして、日本家族計画協会の医学委員会の委員や日頃お付き合いのあるメディア関係者などに以下の内容をまとめた私信を送った。
1.正常妊娠例における尿中エストロゲン排泄量については、中山徹也教授によれば、40週程度ともなると一日40mg(25~55mg)となっている。
2.妊娠直前の尿中エストロゲン排泄量は、最大一日量でエストリオール35+エストロン25+エストラジオール10、合計70㍃㌘程度。
3.今回承認を待つ低用量ピルの中で、日本ワイス(株)と帝国臓器(株)が発売予定のレボノルゲストレル(LNG)に加えエチニルエストラジオール(EE)を0.03mg含有する6錠(A)、0.04mgを含有する5錠(B)、0.03mgを含有する10錠(C)からなる三相性のピルについては、尿中排泄量が明らかとなっている。AではEEの平均排泄量は一日0.00215mg(投与量に対する平均割合7.16%)、Bでは0.00262mg(同6.56%)、Cは0.00168mg(同5.59%)。
以上の結果、ピルを服用することによる影響、排尿による水質汚染からの生態系への重大な影響の可能性を叫ぶことは、女性の存在の否定、妊娠の否定につながる考え方である。「妊婦よ、排尿するな!」ではあまりにも乱暴ではないか。
1.ダイオキシンはエストロゲン産生物質ではない。
2.ダイオキシンによるエストロゲン様作用があることと、エストロゲンの存在をごちゃごちゃにしてはいけない。
3.有史以来、男性は主としてアンドロゲンを、女性はエストロゲンやプロゲステロンを分泌、排泄してきたわけで、これは人間に限らず、哺乳動物も同様である。長い地球の歴史の中で、人間を含む動物から排泄された性ホルモンが、地球環境に悪影響を及ぼしてきたとの証拠はない、それを問題にすることは、生物の否定につながる由々しきことである。
4.1997年12月1日発行の毎日新聞の記事「しのびよる人体汚染」では「合成ホルモン剤の使用」がテーマとして取り上げられているが、これは、妊娠中あるいは生直後に性ホルモンを投与されたマウスを例に問題提起をしているもので、ピルは妊娠中に服用するものではなく、妊娠を回避するための手段である。流産防止剤などに用いられた合成エストロゲンであるジエチルスチルベストロール(DES)とはその役割が全く異なっている。