ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第59話>日本産科婦人科学会など6団体が処方指針案作成
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫
1997年10月19日(日)付け朝日新聞朝刊の一面を飾ったのが、「産科婦人科学会などの6団体 ピル承認に備え処方指針案作成 性感染症など事前に検査■10症例には使用禁止」。記事では、「低用量ピルはホルモンの量を50マイクロ・グラム未満にした排卵を抑制する薬。米国など多くの国で避妊薬として使われているが、血栓症の副作用が心配され、妊娠する例も僅かながらある。欧米では、乳がんや子宮頸がんの発症率が高まる一方、卵巣がんなどは危険性が下がるという報告もある。」とピルの特徴を紹介するとともに、「日本では、1990年以降製薬会社9社が順次厚生省に承認を申請している。中央薬事審議会で議論しており、年内に一般からの意見も募る予定。」と書き、承認までにはまだまだ時間がかかりそうだと結んでいる。
本会をはじめ日本産科婦人科学会、日本母性保護産婦人科医会(現日本産婦人科医会)、日本不妊学会(現日本生殖医学会)、日本性感染症学会、日本エイズ学会など6団体が作成した当時のガイドラインの内容については、筆者もそのドラフト作成に関与したことから、以下、内容をかいつまんで紹介したい。
- ピルが発売されると、コンドームの使用を怠り、性感染症が拡大することを懸念。エイズや梅毒、B型肝炎などに感染しているかどうかを、同意を得た上で事前に検査するほか、使用を認めない症例や慎重に処方する症例を挙げている。
- ピルを処方する医師に避妊や性感染症予防の指導がきちんと行われるように求めている。低用量ピルは海外の使用実績や国内の臨床試験で有効性と安全性が確認されてはいるものの、副作用の発生や性感染症拡大について発売後継続して調査する必要があること。
- 服用禁忌は、乳がんの患者やその疑いのある人、重い肝障害、思春期前の女性などの10症例。慎重投与として、40歳以上や喫煙者、肥満など11症例を挙げ、喫煙者には禁煙か、他の避妊法に変えるように指導すること。
- ピルとの薬物相互作用についても、抗生物質や抗うつ剤などとの併用については注意を喚起している。
これらの事項は、問診でチェックした上で、尿や血液の検査、乳房の検診、子宮頸部細胞診などを実施、妊娠の有無についても確認する。ピルの服用を開始した際には、一定期間ごとに改めて問診や検査をすることと合わせて、処方時にはインフォームドコンセント(十分に説明して同意を得ること)の必要性を求め、その同意書案も作成した。なお、このガイドラインは検査内容などが過重であるとの現場からの声を受け、2005年12月に改訂版が発行された。