1997年8月3日から8日まで、デンマークの首都コペンハーゲンで第15回世界産婦人科学会議(FIGO'97)が開催された。筆者は、会場に近いラディソンSASスカンジナビアホテルで行われたWyeth-Ayerst International Symposiumに招かれ、「経口避妊薬の開発及び使用をめぐる諸問題」をテーマに、ピル後進国日本の特殊事情について話をする機会を与えられた。以下はシンポジウムレポートからの引用である。
OCの認可を長年主張してきた日本家族計画協会クリニック所長の北村邦夫氏はまず、日本とフランスにおける妊娠の結末を紹介。それによると、希望した出産がフランスでは66%に対し、日本では36%。反対に意図しない出産がフランス12%、日本36%、人工妊娠中絶はフランス19%、日本27%だった。
同氏は「中絶だけをとれば日本が世界と比較して特別に高いわけではないが、既婚女性の26%もが中絶を経験しており、そのうち40%が中絶を繰り返している点が問題だ」と主張。また、英国における年齢階級別避妊法を示しながら、日本における避妊法の選択肢の少なさを問題視した。
北村氏によると、65年には高用量ピルの認可が確実視されていたという。しかし、その後、サリドマイド事件など薬剤問題が社会問題となり医薬品特別部会が中止された。その後、20年以上が経過し、87年には5,048人の女性が参加(7万1,747周期)したOCの大規模治験が開始され、90年には9社16品目のOCが申請された。ところが、ピル解禁がコンドームの使用率を低下させ、エイズ蔓延を促進するとの理由で92年に「ピル解禁」は凍結。95年に再び審議が開始され、97年2月には配合剤調査会が科学的な立場からOCの安全性と有効性を認める判断を下した。その後3月には医薬品特別部会が公衆衛生審議会に「ピル認可がエイズ拡大に及ぼす影響」について意見を聴取し、現在のところ審議は継続中である。
北村氏は、治療薬として既に日本で認可されている中高用量OCが、実際には避妊薬として20万人近い女性に処方されている事実を明らかにし、高用量OCは低用量OCに比べてホルモン含有量が5~30倍であり問題が多いと指摘。また、低用量OCに関する情報が少ない現時点においても女性の13.1%、約250万人はピルの使用を希望しているとの推計値を示し、OCの潜在的必要性の大きさを主張した。
最後に同氏は「OCはあくまでも避妊薬であり、エイズや性感染症予防はOCの有無に関係なく必要なことだ。家族計画に関する政府開発援助(ODA)の拠出金が世界で一番の日本が途上国からのピル援助の要求に応えられないのも問題だ」として、OC認可の必要性を訴えた。