公衆衛生審議会(以下、公衛審)が1997年6月16日に開催されることから、6月10日、堂本暁子参議院議員が参加を呼びかけた。「5月12日に開催された審議会では、やや科学性に欠ける感情的な議論が先行し、『中絶せざるを得ない女たちの健康をどう考えているのか』『あたかもピルがエイズウイルスを運んでくるかのようだ』『まるで女性がネズミや蚊のように伝染病の媒体者だと言われているようだ』『委員の中にピルをきちんと理解している人がいないのは問題だ』などの批判が審議会後に起こっています。」と書き、「『女不在の審議』を女たちの目と耳で確認するというのは如何でしょうか。」と公開される審議会への参加を促した。
筆者も当時会場に急いだが、傍聴席は女性たちで溢れ、ピルに対する関心の高さを物語っていた。当日、公衛審伝染病予防部会(部会長:山崎修道国立感染症研究所長)の報告を聞くにつけ、ピルの承認は明らかに遠のいたと感じざるを得なかった。
しかし、6月17日付け、日本の各種メディアの論調は、筆者とは大きく異なっていた。「9月にもピル解禁 厚生省公衆衛生審議会(以下、公衛審)が容認へ 先進国で不許可は日本だけ 性感染症の予防強化が条件」(日刊スポーツ)、「『ピル』今週にも解禁 公衆衛生審 容認の報告 性感染症対策条件に」(読売新聞朝刊)、「ピル、9月にも承認へ 公衆衛生審 エイズ予防強化条件に」(東京新聞)。
読売新聞の記事は、次のように続く。「厚生省では既にピル解禁の方針を固めており、同部会が「条件付き容認」の見解を示したことで、解禁が凍結されてきた低用量ピルは、同省の中央薬事審議会の最終決定を経て今秋にも承認されることが確実となった。(中略)この日まとまった報告書では、性感染症予防に有効なコンドームが、日本では主に避妊目的で使用されているため、ピルが解禁されるとコンドームの使用率が低下する可能性を指摘。ピル解禁は「エイズウイルス(HIV)など性感染症の増加の要因になると考えられ、解禁の前提として、性感染症予防についての国民の認識を高め、感染拡大を防ぐ対策の強化が不可欠」との見解を示した。報告書はその上で、具体的対策として、医師がピルを処方する際にコンドームを併用して性感染症を予防するよう十分に説明し、服用者向けのピルの説明書にも併用の重要性を記載することなどを求めた。(後略)」
その一方で、専門紙である「日刊薬業」の7月1日(第9724号)には、「低用量ピルの承認問題は継続審議」との記事が掲載され、一般紙との違いを見せつけられることになった。