1997年6月10日、参議院の堂本暁子議員(当時)から、初夏の候で始まる「お知らせ」が届いた。6月16日に公衆衛生審議会(公衛審)の公開審議が虎ノ門パストラルで午前11時から開かれるという案内だった。ここには、5月12日に開催された公衛審での議論がやや科学性に欠けて感情的だったと指摘されている。「中絶せざるを得ない女たちの健康をどう考えているのか」「あたかもピルがエイズウイルスを運んでくるかのようだ」「まるで女性がネズミや蚊のように伝染病の媒体者だと言われているようだ」「委員の中にピルをきちんと理解している人がいないのは問題だ」などの批判が審議会後に起こっているという。続けて、「女不在の審議を女たちの目と耳で確認するというのは如何でしょうか。事務局に問い合わせましたところ、会場スペースの関係上、傍聴席は60席程度ですが、公開が原則ですし、資料の配付は可能とのこと。ピルの行方を決めかねない重要な審議会です。科学者がどんな議論を展開するのか見守るのも一興かなと存じます」と書かれていた。筆者も当日会場に駆けつけたが、堂本議員からの呼びかけが奏功したのか、審議会委員の男女構成とは打って変わって、会場は大勢の女性で埋め尽くされていた。
6月26日に、公衛審の高久史麿会長から中央薬事審議会の南原利夫会長宛に「意見を求められた件について(回答)」が届いた。資料を含めてA4・13頁にわたるものであった。「5.低用量経口避妊薬の承認等に際して性感染症予防の観点から講ぜられるべき対策」では、①国民向けの予防対策の充実・強化、②低用量経口避妊薬の処方に関わる対応、③今後の動向の把握、④関係団体等に働きかけ、からなっている。
「6.おわりに」では、「我が国において避妊を目的としたコンドームの使用が広く普及していることがHIV感染の拡大防止に大きな役割を果たしてきたと考えられること。従って、国民の性感染症予防への認識が低い現在の状況が続くならば、低用量経口避妊薬の使用・普及が性感染症の今後の動向、とりわけHIV感染症の拡大に影響を及ぼす懸念があること等を述べた。(中略)貴会においては、当審議会の意見を踏まえて、総合的な観点から審議されることを希望する」と結んでいる。
承認に舵を切っていいのか悪いのか、結局、中薬審に再び賽が投げられた形になったのだが、翌日17日には「ピル、9月にも解禁 エイズ対策強化を条件に 公衆衛生審」(産経新聞)などが記事になったが、6月27日開かれた中薬審医薬品特別部会では「継続審議」が決まった。