1997年5月12日に開催された公衆衛生審議会伝染病予防部会の委員名簿が手元にある。委員17名。うち女性委員3名のみ。産婦人科医はゼロ。今回は、中央薬事審議会(中薬審)から低用量ピルの承認によるHIV・STDの増大について意見を求められており、その意見書の内容について審議することとしている。
公聴報告書によれば、審議内容として、次のように書かれている。ピルと感染症との関連を示すデータが明らかでない以上、ピル解禁によって現状より感染症が拡大する危険性は否定できない。データが明らかになってから解禁しても遅くはないのではないか。とりあえず、中薬審への意見書提出は来月に先送り。今回の審議内容により次の3点を強調した形で意見書を作り直し、再審議するとある。
①ピル解禁によるHIV・STD拡大の可能性を強調する。
②解禁に伴う対策として性感染症予防のキャンペーンを大々的にうつ必要がある。
③処方前に必ず性感染症の検査を行うこと。
委員会メンバーの発言要旨は以下の通り。(敬称略)
(井上榮・竹中浩治)海外のデータを調べても、低用量ピルとHIV・STD拡大との関連を示すものは得られておらず、両者の関連については現時点で不明。不明ということはピル解禁後に現状より悪化することが考えられ、ピル解禁に反対すべきだ。
(井上榮)日本でHIV感染が低いのはコンドーム使用率が高いから。コンドームを使用すれば避妊にもなるのだから、何もピル解禁に踏み込んで危険をおかすことはない。国民の安全性を第一に考えるのであれば、この部会ではピル解禁反対を言うことが責務ではないか。
(熊本悦明)性感染症がピル解禁で拡大するというのはナンセンス。性感染症はピルが解禁されようとされまいとこのままだと数年後益々拡大することは確実でピルとは無関係。ピルの解禁を機会に、大々的に性感染症予防キャンペーンをうった方がかえって性感染症予防ができる。
(山口規容子)低用量ピルの有用性、安全性はこれまでの治験で明らかであり十分認識している。問題は性感染症がこれにより増えるかどうかである。解禁するなら、性感染症予防キャンペーンを大々的に行うべきである。
(山崎修道部会長のコメント)米国ではエイズが拡大した時には、既にピルが解禁されていた。これからピルを解禁するという現在の日本の状況とはバックグラウンドが違う。アジアでエイズが拡大傾向にある中、日本はそれほど拡大していない。多くがコンドームを使用しているためで、ピル解禁によるエイズ感染の拡大は否定できない。