1994年9月26日と27日、筆者はロックフェラー財団のシンディング人口科学部部長と生物医学および性と生殖に関する健康研究および養成機関の首席顧問であるファタラ教授(世界保健機関にあって、91年、初めてリプロダクティブ・ヘルスを定義した方)を訪問した。
その後、お二人の連名で以下の手紙が届いた。
「ピルに関して日本がおかれている状況を鑑みますに、考慮しなければならない点が4つあると考えます。
1.日本では低用量ピルを使用することによりHIV感染とエイズが蔓延(まんえん)するという議論がありますが、ピルの使用とHIV/エイズの関連性についての明確な証拠は見当たりません。
2.エストロゲン量の多い初期のピルに変わって低用量ピルが使われるようになってからは第一世代のピルに見られたような重篤な副作用がほとんど見られなくなってきました。
3.いかなる社会においても医学的、道徳的あるいは政治的な理由で、安全性が確認された、いくつかの避妊法の選択肢の中から、女性が選ぶ権利を否定してはならないと思います。この女性の選択権をこのように厳しく制限する国は先進諸国の中でも日本を除いて見いだすことはできません。
4.日本はODAの一環として発展途上国への人口および家族計画運動への援助を著しく強化する意向を表明しました。日本が自国でのピルの使用が許可されていなければ、日本は発展途上国に対しピルを提供することができないということです。大半の発展途上国はピルの使用を認めており、非常に強力にピルの使用を推奨しているのです。」
さらに27日、ニューヨーク市にあるマンハッタン診療所を訪問。ニューヨーク市家族計画協会のアレクサンダー・サンガー会長と接見した。彼は、言うまでもなく、あのマーガレット・サンガー女史の孫に当たる方である。
「この避妊薬はその歴史の中で医学的に最も広く研究されており、安全性と有効性の両面で終始一貫して明らかにされてきました。アメリカでは、この経口避妊薬は可逆性のある避妊法として最も広く用いられており、この低用量ピルを選択する女性は増え続けております。HIV/エイズに関して日本政府が懸念しているのは私どもも同じであります。しかし、疾患からの保護と望まない妊娠の予防は共有可能なものですが、その方法は同じものではないと私どもはニューヨーク市家族計画協会で学びました。性の健康を育成するための最も良い方法は、安全で確実な避妊法を数多く用意し、性感染症とHIV感染のリスクに関する十分な情報を提供することです。」