1992年2月、「ピルの認可は、エイズまん延の引き金になりかねない」との公衆衛生上の見地から、直前にまで迫っていたピルの認可を国が継続審議としてから1年以上が経過した。業を煮やした日本家族計画協会、日本産科婦人科学会、日本母性保護医協会、日本家族計画連盟の4団体の代表が、丹羽雄哉厚生大臣(当時)を訪ね、「ピルの認可を求める要望書」を提出、審議再開を強く求めた。
要望書ではまず、「ピルを使用することによってエイズがまん延するという因果関係がないことは、ピル先進国の経験からも明らかにされている」と述べ、さらにエイズとピルを同一次元で論ずるには大きな矛盾があると指摘。エイズ予防は正確な知識の普及、性教育の推進などによって成し遂げるものであると強調している。
次に、ピルは有効かつ安全性の高い避妊法であることは世界各国の経験が示している通りで、現在、44万件もあるわが国の人工妊娠中絶を防止するためにも100%近い避妊効果のあるピルを避妊法の選択肢の一つに加えることは意義深いことだと述べた。
またピルの認可に向けて行われた臨床治験のために、5千人余の女性の協力を得ている。この女性たちの約半数は治験後も月経治療を目的にしたホルモン用量の高いピルを使用しており、現在、約50万人の女性が同様のピルを使用せざるを得ない状況にある。
臨床治験の結果、ピルの安全性と有効性が評価された今日、ピルの早期発見に踏み切ることが、治験に協力した女性に対しても、道義的に最優先されるべきだと訴えた。
大臣は、これに対して「私の個人的な見解では、ピルの解禁とエイズのまん延とは、別問題だと考えている。エイズ予防にかぎっていえば、これからも都道府県を中心に地域レベルでエイズの正しい知識の普及に努力していかなければならないので協力してほしい。(中略)女性の中にはピルを飲んで、からだをコントロールすることは不自然だという反対論もある。こういったことから中央薬事審議会でピルの問題は慎重に検討していかなければならない。確かに、ピルとエイズを一緒に考えるのは短絡的だと思う。エイズはエイズとして、しっかりした対策を立てなければいけないし、ピルはピルとして効果、安全性、その他を含めて慎重に審査しなければならない」
これに対して4団体の代表者は「エイズ予防には積極的に協力するけれども、ピルの審議がストップしてから1年以上たっているので、早急に審議を再開してほしい」と強く訴えた。(1993年5月1日発行「家族と健康」第471号)