ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第37話>日本家族計画連盟もピルの認可延期に見解
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫
低用量経口避妊薬(ピル)認可延期が報じられてから1か月が過ぎた。この間、アメリカを中心とする海外マスコミからの取材が殺到した。それに反し、国内のマスコミはほとんどこの問題を取り上げていない。一般にもあまり動きはない。しかし、ピル認可延期の問題は、このまま見過ごしにしてはいけないと、日本家族計画連盟(加藤シヅエ会長)が、1992年4月に「低用量経口避妊薬の認可延期に対する見解」を作成し、女性の国会議員を中心に、厚生省(当時)、マスコミなどに配布してアピールした(「家族と健康」第458号、92年5月1日号)。以下はその概要である。
1. ピルとエイズは基本的には別の問題である
- ピルとエイズは基本的には別の問題である。ピルは望まない妊娠を防ぐために開発された薬であり、エイズ予防とは本来何の関係もない。
- エイズ蔓延(まんえん)のおそれを理由にピルを禁止した国は、どこにもない。ピルがエイズ予防にマイナスというのであれば、子宮内避妊具などの避妊法も、すべて禁止されなければならない。
- エイズ予防のために政府がまずやるべきことは、エイズに関する正しい知識の普及と、カウンセリングや医療サービスの充実およびエイズに感染、あるいは発症した人たちの人権を守るための環境作りである。
2. 避妊は基本的人権の問題である
- ピルは、あくまで避妊法の一つとして認可されるべきである。
- ピル認可延期の理由として、エイズ予防という「公衆衛生上の見地」があげられているが、ピルは、多くの女性の健康に関わる中絶を未然に防ぐための避妊という、もう一つの「公衆衛生上の見地」に立って認可されるべきである。
- ピルをエイズに結びつける考えは、ピルの普及が女性の“性道徳の乱れ”を招くという前提に立っていると思われる。女性の使うピルが“性道徳の乱れ”と関連づけられる背景には、男には寛容で女には抑圧的という昔ながらの性の二重基準が感じられる。どの避妊法を選ぶかは個人の自由意志に任せられるべきである。政府に望みたいのは、避妊の選択肢を増やし、選ぶ自由を個人に保障することであり、避妊を管理することではない。
3. “ピルの二重構造”はなくすべきである
認可延期の結果、現在の“ピルの二重構造”は、依然としてそのまま残された。政府は、ピルを避妊薬として認めていないにもかかわらず、治療のための中・高用量ピルが避妊に転用されている事実には目をつぶっている。
4. 政府は国民に情報公開をする義務がある
5. 政府委員の半数は女性にすべきである