親から「生理の話は人前でしないこと」「生理用品は隠すこと」と教えられていたので、私は若い頃に、オープンに月経の話をした記憶がほとんどありません。私自身の月経はいたって“普通”で、みんなも私と同じであろうとのんきに考えていた医学生の時に、「同じクラスの〇〇ちゃんは生理がひどくてピルを飲んでいるらしい」といううわさを聞き、大変衝撃を受けたのを覚えています。
OCが日本で承認・販売された1999年に、私は医師免許を取得しました。2年間の研修医生活を終えた後、東海大学産婦人科に入局。私が最も興味を持って働いたのは「更年期外来」と月経不順の人の「内分泌外来」でした。でも、どちらの外来もホルモン補充が治療の中心でしたので、OCを処方する機会はありません。私の中ではいつしかOCは、「敷居の高い薬」という認識になっていました。
私は3人の子宝に恵まれました。子育てが落ち着くまでは腰を据えて専業主婦をすることに決め、退職しました。末の子が小学校に入学する頃に復職を意識し、さまざまな産婦人科の学会や講習会に足を運びました。その中でも日本家族計画協会主催のセミナーは、どの講座も刺激的で、多くの学びを得ることができました。特に、北村邦夫先生の低用量ピルの歴史的背景の解説や、2008年にLEPが登場したこと、そしてOC/LEPを処方されている諸先生方のお話を伺い、「この感動を誰かにシェアしたい!」「自分も女性のヘルスケアの領域で、もう一度働きたい!」と強く思うようになりました。
多くの人のお力を借り、専業主婦を無事に卒業した私は、現在、東海大学医学部付属病院産婦人科で週に1回のホルモン専門外来を担当しています。過日、3か月連続で下腹痛を主訴に救急車で来院した中学生のお嬢さんが外来にみえました。原因は機能性卵巣嚢胞(のうほう)・黄体出血・排卵痛と毎月異なりましたが、どれも排卵にまつわるものでした。この時、日本家族計画協会のセミナーや女性保健医療セミナーなどで学んだ私は自信を持って保護者の方にメリットとデメリットをお伝えしつつ、LEPをお勧めすることができました。お嬢さんは服薬にとても前向きで、後日の再診時には腹痛で部活動を休まなくて済む喜びや充実した学校生活について、笑顔で語ってくれました。この時、OC/LEPは本当に女性のQOLを上げる薬だと実感しました。
私はOC/LEPをはじめ、自分の人生設計の選択肢を増やすための知識を多くの人と共有したく思い、東海大学国際学部の小貫大輔教授と協働で「大学生のための性教育」に取り組んでいます。4か月に計14回の講義の中で私は医療の側面から、小貫先生は文化的側面から性を語ります。医療の話題は怖い内容も多く、時に“脅し”と捉えられかねないこともあるのですが、小貫先生が上手にフォローしてくださるので学生さんは「自分ごと」として素直に吸収してくれます。OC/LEPの利点と副作用を講義した際には、「今度婦人科に相談に行ってみようと思う」や「今、生理痛がひどくて低用量ピルを飲んでいますが、自分の選択は間違いじゃなかったと安心しました」などと感想を寄せてくれる学生さんがいらっしゃり、やりがいを感じています。これからも若い人の自己決定を後押しできる仕事を細く長く続けたいと願っています。