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OC/LEPが私の医師人生をどう変えたか

OC/LEPが私の医師人生をどう変えたか<46>
OC/LEPとともに地域のSRHRを推進

第843号


宮崎県立宮崎病院産婦人科兼地域医療科(宮崎県宮崎市) 髙村 一紘

宮崎県の現状

 都道府県別の人工妊娠中絶実施率をみると、ここ数年間、宮崎県は1位または2位が続いています。母体保護法指定医として中絶手術に関わってきましたが、10代の妊娠では、すでに中絶ができる週数(妊娠22週)を過ぎてから医療機関を受診するケースもありました。10代だけでなく中絶率の高い20代前半においても、確実な避妊ができていない結果、身体的にも精神的にも負担の大きい中絶を選択している現状を目の当たりにしてきました。月経や精通が始まれば、女性は妊娠し、男性は大切なパートナーを妊娠させる可能性があるということですから、若い人たちには年齢、発達に合わせた包括的性教育を受ける機会をもっと充実させていく必要があります。
 私の担当した中学生は、妊娠や中絶の意味もよく分からないまま妊娠し、中絶手術を受けていました。歯止め規定のため、中学校の教育では性行為にも避妊にも触れることはできません。意図しない/するにかかわらず、妊娠した女性は質の高い、安全で包括的なヘルスケアサポートを受ける権利がありますが、そういった基本的な教育を受ける機会が制限されています。
 しかし、このような中絶の現状に危機感をもって対応しなければこれからも変わることはありません。宮崎県では、私の知っている限り、主に助産師会や産婦人科医会、個人で活動している性教育の専門家に依頼した中学校、高校で性教育が行われてきました。宮崎県の現状を知るかぎりその効果は限定的で、本来なら全ての中学校、高校で包括的性教育が受けられる環境整備が望まれます。

OC/LEPと性教育

 2008年、ピルが保険適応薬として承認された年は、宮崎県椎葉村で総合医として地域医療をしていました。その縁で、家庭でできる性教育について椎葉村の小学校の保護者に対して講演をしたのが最初でしたが、当時は全くうまくいきませんでした。そこから全国の性教育やOC/LEPの普及を熱心にされている産婦人科医とつながり、学びを深めてきました。現在はSRHR(Sexual Reproductive Health and Rights)を推進していくことを目標に、主に宮崎県内で講義や講演活動を行っています。
 講義や講演では、OC/LEPは避妊だけでなく月経に関連するさまざまな症状にも効果があることを話します。しかし、実際の診療では、生理痛のきつさや月経前後の気分の浮き沈みなど、月経に関わる症状を我慢するしかないと考えて、医療機関を受診するまでOC/LEPが選択肢となっていない女性が多いと感じています。月経、妊娠に関連する知識、スキル、態度を包括的性教育の中で、年齢、発達に応じて学んでおくことは、20代、30代、40代と年齢を重ねたときに生じる健康問題に対処していく上でもとても大切だと思います。

今後の活動

 自分にとって一番大切なのは、目の前の患者さんを丁寧に診療し続けることですが、これまで地域医療でやってきた経験を他職種や次世代と共有しながら、活動していくことも大事にしていきたいです。へき地医療(主に高齢者医療)では医療、予防、福祉について地域全体をみて、包括的ケアを実践していました。女性医療においても、思春期、性成熟期、更年期、老年期におけるさまざまな健康問題に対して、包括的ケアを実践していきたいです。
 また、歯止め規定など学校教育現場での限界があることを重々承知の上で、SRHRの推進に興味を持っている教師、行政などと連携し包括的性教育の普及に取り組むことも実現したいと考えています。その中で、OC/LEPを必要とする女性が自らの意思で選択できるように正しい情報の発信に努めていきたいと思っています。


今月の人

たかむら・かずひろ
2005年、自治医科大学卒。宮崎県立宮崎病院で初期研修後、国民健康保険椎葉病院、自治医科大学産婦人科後期研修、国民健康保険西米良診療所を経て、13年4月より宮崎県立宮崎病院産婦人科兼地域医療科に在籍。


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