母は結婚後10年妊娠に至らず、私が生まれたのは36歳の時でした。私が中学生の頃には更年期障害のさまざまな症状に苦しんでいたようです。母の頼みで隣町の体育館で行われた何らかの集まりに参加し、壇上から偉い人が会場に送る「念」のようなものを当時中学生で坊主頭の私がいったん受け、さらにそれを母に送る―という親孝行も虚しく、結局、母は定年を待たずに退職してしまいました。
私はというと、その後医学部に進学しました。学生時代には外科系診療科への興味が強く、外科か産科婦人科で迷いましたが、婦人科手術のダイナミックさ、分娩で新しい生に出会う感動、さらに母のエピソードもあり1998年に熊本大学産科婦人科に入局しました。
大学病院では婦人科腫瘍を専門とし悪性腫瘍手術漬けの毎日でした。OCは見たことすらなく、LEPを2008年に初めて知り恐る恐る処方しました。12年に大学を出て地方の総合病院産婦人科の一人部長として一般婦人科外来診療をするようになり、LEPを処方する機会が増えました。14年1月のブルーレター(※)発行で一時的に処方内容の変更があったものの、LEP全体としての処方数は減ることなく、月経困難症に対する効果を日々実感していました。
※医薬品・医療機器の添付文書が改訂された際、製薬企業から配布される「安全性速報」のこと。
改訂内容が使用制限をかける必要はないが、使用の際に注意喚起すべきものである場合に、作成・配布される。
その頃から開業したいという気持ちが芽生えましたが、周りからは男性医師の婦人科クリニックは大丈夫かと心配され、地元の銀行からも診療圏調査によるとペイできないため融資できないと断られたりもしました。そのような折に、蓮尾豊先生(あおもり女性ヘルスケア研究所所長)が性教育とOC/LEPの講演で熊本に来られ、「OC/LEPを正しく処方すればきっと大丈夫だ」という心強い言葉を弱気になっていた私に掛けてくださいました。
18年2月にようやく開院にこぎ着けましたが、当初より「ピル外来」を診療の一つの柱としてホームページにも大きく掲載したところ、Yahoo!で「ピル」をキーワード検索すると当院ホームページが5番目に表示される時期もあり、徐々に処方を求めて受診する患者さんが増え、女性が自らOC/LEPの情報を求めるようになったのだろうと感じました。また、北村邦夫先生を始め諸先輩方がOC/LEP承認から普及に向けて大変なご苦労をされてきたことを改めてありがたく思いました。
熊本県は17年に中絶率全国ワースト1となりました。それまでは産婦人科医が学校での性教育講演を断られることが多かったのですが、私を避妊教育ネットワークに誘っていただいた田畑愛先生(フォーシーズンズレディースクリニック院長)が教育委員会や行政に掛け合ってくださり、熊本市立中学校約40校での性教育に行けるようになりました。
1時間弱という限られた時間の中に、月経・妊娠の仕組みから始まり、月経困難症、ピル、避妊・緊急避妊、性感染症、HPVワクチン、LGBTQなどを盛り込んで話しています。感想文ではOC/LEPについてのリアクションが多く、男子生徒からも月経のつらさに共感しようとするものもあり、われわれ産婦人科医が直接語ることの大切さを実感しています。今後も避妊教育ネットワークの活動を通じて社会に貢献して参りたいと思います。皆さまご指導よろしくお願いいたします。