当クリニックは奈良盆地の東南端に位置する人口6万人余りの桜井市に所在します。人口減少カテゴリーⅢ(日医総研資料より)※に属しますが、大阪・京都の中心部へは1時間足らずで行け、地理的には利便性の高いエリアになっております。
しかしながら人口流出、再生産年齢層の減少、経済の県外依存度の増強等、静観していると地元の明るい未来はないといっても過言ではありません。
このような条件下でOC/LEPの普及とクリニックの役割について考えてみました。
※編集部注 人口減少カテゴリーⅢ:人口密度をもとに分類した「大都市、地方都市、過疎地域」という区分のうちの「過疎地域」のこと。
OCが使用されて25年、LEPが治療目的として処方されてから15年になります。元々避妊目的としてOCの副効用に月経困難症や過多月経等を緩和することが知られていた中でLEPの出現は画期的なものでした。これまでしばしば通勤、通学途中に月経困難症で緊急搬送されてきたことがLEPの普及により減少し、社会生活や経済活動に支障が少なくなり、相当な女性のQOLの改善をもたらしたと思えます。
学校の部活やさまざまな課外活動においては、これまで生理の周期を移動させる治療がLEP服用によりほとんど不必要となり、感謝されております。
OC/LEPの普及については効率よく、同時に婦人科受診のハードルを下げる工夫が必要です。クリニックで患者さんを待っているだけではだめですし、HPで啓発しっぱなしでもだめだと思います。私がこれまで最も着目してきたものが「集団」「団体」でした。高卒までならいわゆる「マスプロ式」で知識伝授型の形で、より多くの学生に一律に情報提供が可能となります。高校卒業後、社会人や大学生となれば、専門的な知識の修得は個人の自発的なものが主流となり、氾濫している情報の暴露により個々に必要な正確な情報にたどりつけないことが多くなります。そこで具体的な活動としては、学校医として教育現場と連携しながら、学校での生徒に対する講演、学校保健会等での教職員ならびにPTAへの情報提供、地域PTAの集会等への出前講座等、フルに参画しております。また高校卒業後の「集団」「団体」には、産業医や健康管理医として医療関係大学の学部はもとより一般の大学、企業に出向いて産婦人科の専門的な情報を積極的に伝授してまいりました。これらの活動を繰り返す中で、個々の症状に対する対応が必要となったとき、以前に顔が分かっている関係の下で受診へと平滑に事が運ばれます。今後もこれらの活動は継続していく予定です。
昨今、電子媒体の普及で薬剤がネット販売されたり、連携診療での薬剤提供が多く見られるようになりました。本来の薬剤の使用について効能・効果・副作用・定期管理等が実施されていれば問題は無きものの、薬剤提供する側の営業重視やそれを利用する方の単なる利便性から、定期的な診療なくいきなり健康上のトラブルを発症している患者さんもいます。利便性と危険性は表裏一体でありOC/LEPを使用する方への継続的な注意喚起や正確な情報提供を欠かすことはできません。
ひと昔前までは、思春期の子どもさんが生理の異常に対し、ホルモン治療が必要であると診断されても「ホルモン剤」という言葉で母親が治療の受け入れが困難となり、本来の治療ができず困惑した症例をしばしば経験したものでした。まさにヘルスリテラシーが低い状態が当然のごとく維持された状況でした。
今日では女性の婦人科受診のハードルが低くなり、幅広く治療が可能となったのも先輩先生方の弛みない努力の賜物と思われます。今後小生も、微力ながら女性の一生を通じたQOLの改善を目指し、クリニック内ではもとより医療現場外での活動をさらに充実させていくつもりでおります。