1993年産婦人科医としてスタートした時から、ずっと現場でお産と向きあってきました。私が所属する健生病院産婦人科は、その病院名「健生」を「健やかに生きる」と読み、「健やかに産み、健やかに育て、健やかに働き、健やかに老いる」女性の生涯を応援することをスローガンとしています。なので、私の原点は「母と子が健やかに」であり、そのための「自然なお産と母乳育児」です。お産は全て違っていて、一つ一つが大切なのですが、若年妊婦や飛び込み分娩など、予期せぬ妊娠・出産もあり、貧困など、いわゆる「特定妊婦」とされる妊産婦さんも多く、「一人親世帯、食事は常に出来合いの物、高校に進学することなく、中学校卒業時期に妊娠」というパターンで「育てる気はない」という子もいれば、「彼氏が大好きで、何とか家族をきちんと作っていきたい」という子もいます。助産師外来は時には裁縫教室になったりしていますし、精神疾患合併など子育て困難事例では、弘前市健康こども部こども家庭課・健康増進課・児童相談所など関係機関が集まっての合同調整会議が開催されたりしています。兄妹での妊娠事例もありますし、中学生の妊娠で無事に学校に帰すために学校との連携が必要だった事もあります。お産は、母と子の絆や家族の根幹に大きく関わると思っているので、お産の場は幸せな時であってほしいと願い、自然分娩を大切にしています。当院はWHO/ユニセフからBFH(Baby Friendly Hospital)の認定を受けていますが、母乳育児に関しても同様です。
大切にしたいことをきちんと大切にしようと思う中で、思春期とも関わり、2004年から中学校・高校での性教育講演に出掛けています。青森県には「産婦人科校医制度」があり、県教育委員会から委嘱を受けています。私は15年から津軽地域の産婦人科校医となりました。何を「健やか」と考えるのか、価値観もその人によって違うことを自らの事として認識し、自分の人生を切り拓いていくことを模索するのが思春期です。だからこそ、健やかであって欲しいと願い、OC/LEPとの出会いは「私のからだは私のもの」と自分と向き合うための手助けになると思っています。まさに「知らないは愚か、知らせないは罪」と思いながら学校に出掛けて行っています。
2022年4月、弘前大学の学生が「産婦人科への一歩@弘前―産婦人科受診のためのビギナーズブック―」を制作し、6,000人の弘大生全員に配りました。弘前大学のホームページでダウンロードすることもできます( https://www.hirosaki-u.ac.jp/topics/72122/ )。私は大学の産科婦人科学教室の横山良仁教授、蓮尾豊先生と一緒に監修に入らせてもらいました。制作メンバーは、あずましキャンパス(あらゆるハラスメントを許さず、すべての学生が自分らしく安心して過ごせるよう、あずましい(=津軽弁で「居心地がいい」)キャンパスライフのために活動している団体)とVoice Up Japan Hirosaki(誰もが安心して声をあげられる環境を作り、ジェンダー平等をはじめ、セクシュアリティ・年齢・国籍・人種・宗教などを問わず全ての人の平等を目指している、一般社団法人Voice Up Japanの弘前支部)です。そもそもは人文社会科学部の学生が、自分が産婦人科を受診して月経の事を相談できて安心した経験から、学生向けパンフレットを作りたいと、あずましキャンパスが開催していた生理の勉強会に参加して、相談した事に始まります。性について正しい知識を発信するヘルスケアハンドブックで、月経、低用量ピル、産婦人科受診、避妊・中絶、性感染症、性暴力、月経の社会理解・性的同意など、大学生に身近な「性」について取り上げ、「相談場所」として産婦人科を受診する意義について伝えています。産婦人科医に実際に質問したQ&A、弘前市内の産婦人科医療機関一覧を掲載しています。今年は、大学生にこそHPVワクチンのキャッチアップ接種を知らせないと! とチラシを作成して配布しHPに掲載しています。学生のパワーのすごさを感じました。若者に学びながら私も取り組みを継続していきたいです。