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OC/LEPが私の医師人生をどう変えたか

OC/LEPが私の医師人生をどう変えたか<27>
OC/LEPは可視化できない生き辛さを抱えている方の強い味方

第824号


針間産婦人科(山口県宇部市) 金子 法子

これまでの活動を振り返って

 山口県宇部市で産婦人科を開業しています、針間産婦人科院長の金子法子と申します。医師となって34年、今年還暦を迎え、その自覚も無いまま人生を振り返る年齢となったことに驚き、これから残りの人生はこれまで以上に社会と接点を持ちながら生きていきたいと、昨年長きにわたって携わってきた自院での分娩の扱いをやめました。
 昭和44年に亡き父が当地に開業してから、父が急逝した平成16年に私が跡を継ぎ昨年4月まで、約16,000人の新しい命が当院で誕生したことを思うと、分娩をやめるのは苦渋の決断ではありましたが、やめたことで自由な時間が確保できたこと、自分自身も心身ともに健康を取り戻し心に余裕ができたことで、社会的活動もしやすくなったことは大きな収穫でした。
 現在は4年前より「にじいろ外来」をJFPA思春期保健相談士®と始めています。性別違和の相談に留まらず、思春期の相談もたくさんあり、ピルにつなげる内容も多いです。
 診療以外には、年間40~50回の学校での性教育、性的マイノリティをはじめとする人権教育、女性のライフスタイルにまつわる健康教育などの講演活動、女子フットサルトップリーグ「ミネルバ宇部」のチームドクター兼メインスポンサー、レインボー山口(性的マイノリティに関わる多職種、当事者の団体)との活動、そして昨年5月より地元のローカル情報ニュース番組のコメンテーターもさせていただいています。クリニック以外で、たくさんの当事者、現場の声をリアルに聞けることは大変ありがたいことと感じています。

最近のOC/LEPの受け入れやすさ

 もともと当院では婦人科受診の割合が多く、避妊以外の目的でもOCをたくさんの方に処方していました。保険適応のLEP剤が発売されてからはその適応から「ピル=避妊薬」という先入感が和らぎ、性交経験のない方や思春期世代の親御さんにも受け入れやすくなりました。また月経困難症の治療の選択肢もここ数年で増えてきたことで、患者さんがどの点に困っているかで薬剤を選ぶことができますし、患者さんと医師の両方にとって敷居が低くなったことは間違いありません。
 性教育の講演の際に、OC/LEPについて紹介することは皆様されていることと思いますが、たった10年前くらいまではそれすら難色を示す学校も少なくありませんでした。今、若い世代の先生を中心に、国際セクシュアリテイ教育ガイダンスに沿った性教育講演を行うことが多くなってきました。現行の我が国の学習指導要領では避妊のことは教えてはならないことになっていますが、人権としての性教育という切り口でピルの話をすることで、学校側も拒否反応を示さなくなったのではないでしょうか。

多様性を語る中でのOC/LEP

 性教育の中で多様性(性的マイノリティだけを指すのではなく、生き方や成育歴、環境や親子関係、全てのことを含みます)を語り、男女の差別ではなく区別として女性のライフステージにおいていかに月経にまつわるトラブルが多いかを、男性にもそれを知ることが格好良いのだよ、という切り口で話すと、OC/LEPの効能もわが事として聞いてくれます。
 また、性別違和を抱える女性にとって、月経は月経痛という症状にとどまらず、自分の身体は女性であるという事実を突きつけられ、心が折れそうになってしまう現象です。月経を軽くし、そのストレスから解放する手段としてのOC/LEP処方も将来、性別適合手術をするか否かの考えが決まるまでの一つの有効な方法です。アスリートの中にも当事者はいますが、ドーピングに引っかからないので処方しやすい薬です。もちろんそうでなくとも、月経にまつわる諸症状から解放され、パフォーマンスを上げるためにはなくてはならないものです。
 全国の同志の先生方とともに努力してきたことで花が開いてきたOC/LEPの認知。これからも闊達な意見の交換をしつつ、より良い未来に向けて尽力していきたいと思います。


今月の人

金子 法子(かねこ・のりこ)
平成元年、川崎医科大学卒業。同年山口大学医学部産婦人科入局。各病院勤務の後、平成10年針間産婦人科副院長。平成13年より現職。平成28年第五回西予市おイネ賞全国奨励賞受賞。平成29年山口県医師会功労賞受賞。


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