「おんな三代、祖母と母と私でこんなに生き方が変わってるって、これまでなかった変化だろうから、そこに関わる仕事ができたら面白いだろうなあ~」
そんなことを考えながら医学部を卒業したのが2003年。
何でも診れる医師になりたくて、まず総合内科医として医師人生をスタートしました。勤務を始めた病院は、研修医の教育のために米国人教授を招聘するプログラムがあり、私は女性専門の内科医になりたい! と無邪気に語っていました。そこで、ある教授に言われた言葉。「戦後にフランス人女性の人生を一番大きく変えたのはなにか知ってる? 洗濯機でも掃除機でもなく、OC(経口避妊薬)なんだよ!」当時はまだ、あまり意味がわかりませんでした。
06年、ちゃんと女性のケアをできるようになりたい、と産婦人科に転向。先輩女性医師や外来ナースがOCを使っていて、月経不順があった私にも勧めていただき、使い始めました。そして、何が女性の人生を変えるのか理解しました。月経をコントロールできる! 経血量が減る! 変に泣いたり落ち込んだりも減りました[PMS(月経前症候群)だったと気付きました]。内科で出すお薬に、OCほどに劇的に効果が実感できる薬はそうありません。驚きでした。この頃、避妊教育ネットワークを通じて、OCの普及や女性の活躍を支援する諸先輩方にも出会いました。08年にOCと同じ薬が保険適用を受けてLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤)となり、患者さんへの説明もしやすくなりました。知れば知るほど、女性の選択肢を広げる薬だと思いました。
産婦人科専門医となっても、女性のケアができるようになったと思えなかった私は、11年に英国に行き、リプロダクティブ・ヘルスのディプロマコースを受講しました。そこで衝撃を受けました。
先進国では、思春期の子どもや収入の少ない人がOCを無料で使える仕組みがある。途上国でも、OCや避妊ツールだけは無料で使えるようにと支援されている。なのに、日本では生活保護受給者でその他の医療が無料でも、避妊や中絶だけは高額…。なんで? クラスメイトからも質問の嵐でした。
セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)とは、性と生殖に関わることを社会が個人に押し付けるのではなく、社会が、全ての個人の選択を支援するよう変容することだと学びました。顔も見ずして結婚した相手と7人の子をもうけた祖母の人生、嫁役割に人生を費やすよう求められた母の人生、そして誰からも結婚・出産を強要されない私の人生、おんな三代の生き様を変えたのは、まさしくリプロダクティブ・ライツです。しかし、現代でも、生き方を選べない人がいます。
産みたい人が産みたい時に産めるように、全ての人に選択肢を保証することが大切。自分を尊重するスキルも、パートナーと対等に付き合うスキルも、社会が個人に提供するのが大切。どんな環境の人でも、避妊や生殖器の病気の予防、不妊治療ができる社会をみんなで作ろう。途上国からきた同級生たちは、電気がなくても、内戦があっても、SRHRを普及させようとしていました。国連は、そのためのあの手この手を提示しています。日本も、できるはず。
女性のケアは、ひとりひとりへのSRHR支援が基盤だと思っています。コロナ禍で、お金がないからOC/LEPをやめたという女性に沢山出会います。また、避妊の意思があるのにOCもミレーナも使えない人を見ると、海外なら注射やインプラントがあるのに、と残念に思います。
先輩方がOC/LEPの普及に尽力されたおかげで、私たちは随分女性ヘルスケア診療がしやすくなりました。今度は、「誰ひとり取り残さない」SRHRの普及のために頑張るのが、私たちの役目だと思っています。いま、多分野の研究者とともにSRHR Initiative(研究会)(https://srhr.jp/)で日本社会とSRHRについて掘り下げたり、NPO法人女性医療ネットワーク(http://cnet.gr.jp/)の理事としてSRHRの普及に向けた活動をしたりしています。みなさま、是非一緒に頑張りましょう!