1993年、私の産婦人科医人生は青野敏博教授の下、徳島大学で始まりました。ご存知の通り、内分泌についてしっかりとした教育が行われている大学です。私自身が免疫性不妊の研究をしていたこともあり、避妊について携わることが多くありました。ピル(当時はそのようにしか呼ばれていませんでした。)が認可されるところをリアルに体験した世代です。大学でも処方可能になってから早速、月経時に苦労されている学生さんに処方を試みました。
ご縁があり、教育カウンセラー養成講座でサイコエジュケーション(心理教育)の分野を担当し、その中でもピルの情報を生徒はもちろん教育者への提供もはじめました。しかし、当時のピルの処方、情報提供は一つのキーワードで困難を極めました。「ふしだら」―保護者の方、先生方から相次ぐその言葉、医療としての情報提供、処方がなかなか感情を乗り越えることができないことを体験した時代でした。当時は、看護師、助産師、養護教諭のかたがたの協力もあり、怒りをあらわにする保護者へ寄り添い、時間をかけて説明をしてもらうことでその場は収まりますが、なかなか処方までは到達しない状況でした。
ある時期から、テレビのCMでそれまで認知度が低かった月経前症候群(PMS)の話題が流れるようになりました。その治療薬があるという認知が広がるに従って、またOC/LEPという言葉が広がるにつれ、現場での雰囲気が変わってきました。今まで苦労してきた養護教諭以外の先生方の受け入れが非常に良くなってきました。
私の性教育講演会は生徒だけでなく講演会の現場にいらっしゃる先生方にも一緒に考えていただく「構成的グループエンカウンター(SGE)」という手法を用いる事が多いです。赤裸々な実際に即した質問も生徒に投げかけ考えさせます。その答えは、事前に先生方と相談をしておき、赤ちゃんがいたり、小さいお子さんがいたり、妊娠・避妊のことを考えている先生方に答えていただきます。打ち合わせ振り返りのときに、積極的に参加された先生方から「そんな薬があるんですね、どうしたら処方してもらえるんですか? 気をつけることは何ですか?」ととても好意的な反応が多くなってきました。
現在、高知県の「思春期相談センターPRINK」というところで性の相談員をしています。電話相談のため県外の方からPMSの相談、治療薬としてのOC/LEPについての相談も増えてきました。
スポーツ関係でも機会があり、現在は「High Ambition 2020 jp. International Women's Cycling Team」という静岡県御殿場市を本拠地とするプロ女子サイクリングチームのチームドクターを拝命しております。現在、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の規定では、「OC/LEPはドーピング検査で問題なし。」とされていますが、この情報ですら女性アスリートに届いてない場合があります。東京大学産婦人科学教室が発行した冊子『Health Management for Female Atheletes』の中でも述べられている通り、日本の女性アスリートの月経に対する積極的な対応はまだまだ諸外国におくれをとっています。そのため、チームメンバーをはじめ女性アスリートに対して月経のコントロール、OC/LEPについても情報提供し相談にも乗っています。この活動の中で、薬剤師でもありパラメダリストでもある杉浦佳子さんともつながり、現場に即した正しい情報を提供する環境が出来つつあると感じております。
試合へ向けて、また日々の体調コントロールに有効的にOC/LEPを活用する。アスリートにそのような指導をする機会が増え、受け入れのハードルも下がってきていると感じています。わがチームでは必要な選手は適切に利用すること、そしてそれは隠すべきことではないことという雰囲気作りをしております。女性アスリートが活躍する今後のオリンピック・パラリンピック選手たちが必要に応じて適切に利用できる環境を作ることが私達の義であり、私たちの活動が女性アスリートだけでなく全ての女性のQOLの向上に寄与できれば良いと考えております。
滝川氏が共著者として参加した冊子
『Health Management for Female Atheletes』
(東京大学産婦人科学教室発行)
杉浦佳子選手と共に