私が医学生時代、OC/LEP(以下ピル)について大学で詳しく学ぶこともなく、月経のときのナプキンとコンドームの存在について触れる程度の性教育しか受けていない自分にとって、避妊にピルを飲むという知識はもちろんありませんでした。
1999年に認可され、ようやくピルの存在を知っても、周辺で処方してもらえる医院は少なく、当時普及し始めたインターネットで検索し、医院の通販でこっそり購入していた頃が懐かしいです。そして、研修医時代、生理痛に苦しむ自分がいて、内膜症であることの自覚もないまま産婦人科医になって数年を過ごしていました。
自分自身が高校・大学生時代に手軽にピルが飲める環境だったらすごく良かったのに、なぜ学校で生理痛や内膜症などについて役立つ情報をいろいろ教えてくれなかったのだろうと後になって思いました。
そんな経験をしながら2008年に名古屋市内に婦人科クリニックを開業しました。開業当初からOCの処方もしていましたが、そこまでピルに対する熱い思いがあったわけではありませんでした。開業してすぐルナベルが発売となりLEP処方も始まるのですが、このころは将来の自分がこれほどまでピルに関わり、熱心に処方する診療をするようになるとは想像していませんでした。
そして11年、ご縁あって避妊教育ネットワークに参加することとなりました。これが一つ目の転機でした。この会に参加し、避妊教育に愛と情熱を注がれる先輩ドクターに多く出会えたことで自分の産婦人科医としての在り方を考えさせられ、価値感を変えられた瞬間でした。ピルについての知識、性教育の知識をこのネットワークを通じてたくさん学んでいく中で自分が患者さんと向き合う形が変わっていくのでした。
この11年は5月に緊急避妊ピルが発売された年でもありました。ただ、処方当時は「避妊に失敗した(避妊しなかった)から処方を希望してきた」という非常に短絡的な考えしか自分になく、その向こう側にあるストーリーを想像できない未熟な自分がいました。レイプされたことを告白された患者さんがいて、何も対応できない自分がその患者さんに何もアドバイスできないまま帰宅させたことを今でも後悔しています。
その経験から、緊急避妊ピル処方の患者さんだけでなく、全ての患者さんに対し、生活の中に性被害やDV、虐待など暴力が存在しないか、おせっかいだと思いながらもヒアリングすることにしました。また、このころからPMSに悩む患者さんも増え始め、月経困難症に関してもスポーツ外来を含め思春期年齢の患者さんが多くなりました。その後13年の秋にルナベルULDが発売となり、また、17年4月にヤーズが発売となり、ピル処方はどんどん加速していきました。
この二つの転機がもとになって、今の自分の診療スタイルにつながっています。ピルがあることで、月経困難(内膜症の治療)、月経量のコントロール、PMSの緩和、そして避妊ができること。これらにマルチに効果的に作用するピルの存在は現代に生きる女性にとって必須アイテムと考えています。自分も内服していますが、いつもフラットでいられる感覚、生理に振り回されない毎日、本当に快適です。自身のこの経験を語りながら性教育でも診察室でもライフデザインドラックの魅力ついて説明しています。
ストレスが多くトラウマを抱える女性も多い現在、妊娠を希望する時期以外に月経関連のトラブルで毎日のQOLを下げ、我慢やつらい思いをする女性がこれからも減っていくことを願っています。女性が月経を考えることで自分の人生を考え、日々を心地よく生きていけるサポートをしていきたいです。