私がおります鹿角市は、秋田県の北東端に位置し、青森県・岩手県に隣接して僻地保健医療計画に組み込まれている地域です。人口は約3万人で、私が赴任して20年余りの間に1万人ほど減少しており、少子高齢化の秋田県の中でもトップランナーと断言できる地域です。常勤施設が当院しかありませんが、月間OC+LEP処方数は150シート前後しかないのが現状です。
当地は五輪選手を輩出するほど陸上長距離やクロスカントリーが盛んな地域ですが、「身体が軽くなるから無月経のままが良い」とか「生理があるとタイムに響くためコーチから目を付けられる」といったことが部活内に当たり前に流布していたり、下腹痛で来院した10代女性の8割以上にクラミジア抗原が陽性であったり、腰を据えて診療をしていくうち信じ難い事実を目の当たりにしました。
そのような中、赴任翌年の1999年に思春期女子への介入の契機となる二つの出来事がありました。一つは低用量ピルが処方可能になったこと。もう一つは翌年より県事業となる性教育講座の予行に参画できたことです。
当時秋田県の10代の人工妊娠中絶率が全国平均の1.5倍とワーストワンであったため、県産婦人科医会から教育庁に申し入れ、事業化された経緯があります。待ちに待った低用量ピルが解禁され、性教育講座でも自作のスライドで取り上げても、県民感情や県民所得が影響しているのか日常診療で処方量が増加するようなことは全くありませんでした。
2004年に開業しましたが、OCのニーズに目立った変化はありませんでした。しかし、その状況を一変させたのは08年に処方可能になったLEPでした。
LEPの出現は、日常診療はもちろんのこと性教育講座での内容も若干変化を与えたように思います。LEP以前は「女性が主体的にできる避妊法は低用量ピル」と話していましたが、LEPの出現によりOC/LEPの立ち位置は、避妊よりも月経を軽減するアイテムとしてバイアスを置くようになりました。
さらに11年の緊急避妊薬の解禁により、中学生の性教育講座では緊急避妊法の存在について力点を置くようになり、また高校生の講座では自身のライフプランニングを構築する際にOC/LEPを上手く利用することなども話すようになりました。
地道な性教育講座の効果か、自身の月経に積極的に向き合う思春期女子が徐々に増え、アスリートや受験生など長期的な月経のコントロールの希望者も増えてきました。また緊急避妊や人工妊娠中絶後にはシームレスにOCの処方を心掛け、LEPの処方を希望して来院した喫煙者には服薬を契機に禁煙指導を行うようになりました。さらにOC/LEPを「卒業」する方には引き続きHRTへ移行し、老年期への穏やかな橋渡しになるよう努めております。
私自身も幸い数年前から東北地区のOC/LEPの勉強会にお誘いいただき、蓮尾先生をはじめ諸先生からご教示を頂く機会も得られました。当地域のような人口過疎地域におけるoffice gynecologyにおいても、OC/LEPは女性のヘルスケアを向上させる非常に有用なアイテムとなっています。今後も性教育講座をはじめとしてOC/LEPの啓発を図り、地域住民のニーズに応えていきたいと思います。
写真 中学校での性教育講座の様子