今年、神戸市にて開催され、久しぶりに一般演題を発表した「第43回日本思春期学会総会・学術集会」は、記録的な猛暑の記憶とともに私の心に残るものになりました。
JFPAでは前年度の学会が終わる頃から、次年度の夏にある日本思春期学会に向けて発表演題のテーマ探しが始まります。相談員の仲間と共に、「そういえばこんな相談が増えたよね」「数字で見るとどうだろう?」と、日々寄せられる相談事例の中から改めて「?」を掘り起こします。電話相談からLINE相談へ移行したことで、相談者からの言葉がそのまま残り、一つ一つの相談が、単純なデータで分析するのとは違う、大事な記録になっています。
今回注目したのは「妊娠不安」を主訴とした事例です。2023年度の相談実績578 件のうち妊娠不安を主訴とした事例は男女合わせて122件ありました。精査していくと、「腟へのペニスの挿入を伴わない」状況における妊娠不安の事例が散見されました。「腟へのペニスの挿入を伴わない」状況での妊娠不安の中には、緊急避妊の対象となり得るグレーゾーンの行為もあれば、あらかじめ正しい知識があれば全く不安を抱える必要のないケースもあります。こうした事例を検討し、今後の性教育への示唆を得る目的で実態を探り、その結果を発表させていただきました。
対象となる事例は22件。妊娠不安に関連した性行為については、「マスターベーション」や「オーラルセックス」等に起因した妊娠の可能性はとても考えにくいものが10件、「カウパー腺液が付着した手で女性器を触った」「外陰部同士が接触した」等の妊娠の可能性を否定しきれないものが12件ありました。これら行為の中には、他者との性的な接触を伴わないケースもあり、そもそも学習指導要領の「はどめ規定」で制限している「妊娠に至るプロセスの科学的な知識」があれば、不必要な心配を避けられるのではないかと考えられました。極端な事例ではなく、ことの外多く寄せられて相談員を驚かせるのが、あくまで一例ですが、男子では「トイレでマスターベーションをした後に妹が使ったが妊娠しないか」、女子は「生理が遅れているのは、マスターべーションをし過ぎて妊娠したからか」といった不安の声です。マスターベーションは誰もが性を安全に楽しめる手段の一つであるということも、性教育の中で強調できると良いと強く感じました。
個々の事例を振り返りながらしみじみ思うのは、それぞれにとてもプライベートな体験がリアルに描写されており、個別相談だからこそ対応できる内容だなということです。学校等での集団教育では、聞き手に性的関心・経験の個人差があります。性教育を受けたときには妊娠不安に至るような悩みは他人事に感じたとしても、その後個人のニーズが生じたときに自らアクセスできる具体的な書籍やサイト等の性教育教材を紹介しておくこと、並行して個別教育・相談の場が大切だろうという考察を添えました。
久しぶりの学会発表は緊張しましたが、さまざまな立場でSRHRを推進されている先生方や仲間と現地で出会い交流できて、とても刺激的で楽しかったです。普段の相談業務を丁寧に振り返る機会にもなり、とても有意義な時間を過ごせました。