昨年、市谷クリニックの閉院の際、「機関紙にメッセージを寄せて」と杉村センター長から声が掛かりました。そのやり取りをする中、病院勤務を退職し、時間的な余裕があると分かるや否や「また相談員しません?」と。これもご縁かと思い10月、ちょうど幡ヶ谷にお引っ越しをしたタイミングでの復帰となりました。以前はというと1990年から2005年まで思春期の電話相談と外来に従事していました。低用量ピルが承認される少し前から発売後しばらくの間です。当時、緊急避妊はまだ未承認で、ヤッペ法での代用でした。インターネットも今ほど普及していなかったので、そもそも緊急避妊を知る人もそう多くはありませんでした。
2000年3月、当時事務所のあった市ヶ谷に向かう朝、中目黒で日比谷線脱線事故が起きました。私はその列車の少し後の電車に乗っていて小一時間列車に閉じ込められてしまいました。携帯電話が今ほど当たり前にはなっておらず、とても困ったことを覚えています。近くに乗り合わせた方に携帯電話を貸していただき、やっとのことで遅延の連絡をしました。今にしてみれば恥ずかしい思い出です。それを機に携帯電話を持つことにしました。小学生までも携帯電話を持つようになり、インターネットで何でも調べられる今の思春期世代には想像もできない出来事だと思います。そして相談も電話からLINEへと変わり、当初は慣れない入力作業に戸惑いもありましたが、間もなく1年になる今ではスムーズに相談にあたっています。
妊娠しないか心配だから緊急避妊薬を内服した方が良いかという17歳の男子からの相談。インターネットで性器の挿入がなくても精液がついた手が腟に触れれば妊娠の可能性があるとの情報を得たとのことでした。大丈夫だと返信しても絶対に大丈夫かと何度も確認のLINEが来て、着ていた衣類は下着とジャージですとの詳しい説明まで連絡してくる始末でした。
インターネットで何でも調べられる便利さとは裏腹に、余計な心配まで増えてしまい「とんだ時代になったものだ」と感じました。そして、避妊を二人で語ることなく、すぐに緊急避妊薬へと向かっている姿にも「今」を感じます。便利にも思える避妊の方法ですが、あくまでも緊急なのだと強く説明するようにしています。果たしてインターネットではどんなことが書かれているのかと調べてみると、何回分かのまとめ買いやお守りのための購入が勧められていたりします。しかしネット購入では便利な半面、薬剤の真偽など新たな不安も少なくありません。なんでもスマートフォンで済ますのではなく、多少面倒でも、いくぶん費用がかかっても、この心配を機に受診をして、そこから「かかりつけ婦人科医」を持つことを推奨しています。
思春期世代の妊娠不安は今も昔も同じなのに、情報に振り回されて不安が増えているような気もします。せっかく便利な時代に生きるのですから、上手に利用して、楽しい青春時代を過ごしてほしいと願いLINE相談に答えています。