職場健診への歯科健診の追加を検討―厚労省検討会
9月20日、厚生労働省で「第7回 労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会」が開催され、職場健診として歯科健診を行うべきかが検討された。日本歯科医師会常務理事の山本秀樹氏から、歯科健診を行う意義が述べられた後、質疑応答が行われた。
現状では高校卒業後75歳になるまで、歯科健診を受ける機会がほとんどない
この検討会は2023年12月5日に第1回が開催され、労働安全衛生法に基づく一般定期健康診断(いわゆる職場健診)の健診項目について検討が重ねられてきている。職場健診に必要な項目として、日本肝臓学会と日本人間ドック・予防医療学会から「C型肝炎検査を含むウイルス肝炎検査の追加」、日本腎臓学会から「血清クレアチニン値の追加」、日本歯科医師会から「歯科健診の追加」、日本眼科医会から「眼底検査の追加」という要望が寄せられており、第7回検討会ではこれらのうち「歯科健診の追加」が議題となった。
歯科関連の健診は、乳幼児期には母子保健法に基づく「乳幼児歯科健診」、小学校~高校までは学校保健安全法に基づく「学校歯科健診」が行われているが、高校卒業後には75歳以上の後期高齢者歯科健診の対象となるまで大きく間が空く。この間は、母子保健法に基づく「妊産婦歯科健診」がある以外は、健康増進法に基づいて20歳、30歳、40歳、50歳、60歳、70歳の時点での「歯周疾患検診」が市町村の“努力義務”として行われているに過ぎない。
これらを背景として、参考人として出席した山本氏が、「一般健康診断に『歯科』を盛り込む必要性について」というプレゼンテーションを実施。以下のような観点から、職場健診に歯科健診を追加する意義を述べた。
歯科健診・治療が遅れたことを後悔している会社員が、実に7割
同氏はまず、日本歯科医師会が行っている「歯科医療に関する一般生活者意識調査」のデータを紹介。調査回答者のうち職業が「会社員」の人の71.7%が、「人生を振り返って、もっと早くから歯の健診・治療をしておけばよかったと思うか」という質問に「そう思う」または「ややそう思う」と回答した。過去1年間に歯や口の問題のため仕事などの日常生活に支障を来したことが「よくある」が3.0%、「たまにある」が15.4%に上るという調査結果もある。
また、歯科疾患の治療の遅れによる健康や就労への影響として、歯周病は後期に至るまで無症状で進行するだけでなく、糖尿病、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞、慢性腎臓病などのリスクを高めること、残存歯数が少ないと転倒リスクが高くなるが義歯をきちんと使っていればリスクが抑制されること、VDT作業(パソコン操作など)により顎(がく)関節症のリスクが増大することなどが挙げられるという。実際に顎関節症の有病率は企業従業員の方が地域住民よりも高いというデータがあり、さらに顎関節症と従業員の不安感や疲労持続感との関連も示唆されている。
このほかにも同氏は、厚生労働省調査研究として職場で歯科健診を行ったところ、歯科医師による精密な検査では約8割の社員に何らかの所見が見られたといったデータを基に、労働者の健康確保のために歯科健診の機会を広げる必要性を強調した。
歯科健診は重要だが、職場健診として義務付けるべきか?
これに対して検討会構成員からは、歯科健診の重要性については賛同する意見が多く挙がったが、それを職場健診として義務付けることについては、いくつかの点でエビデンスの不足や制度運用上の懸念などが指摘された。
例えば、従業員の8割もが受診勧奨または要精査と判定されるのであれば、健診を経ず従業員全員に対してブラッシング教育を行ったほうがよいのではないか、仮にそれだけの人が歯科を受診した場合に受け皿はあるのか、全従業員に対して歯科医師による詳細な健診を行うことは現実的でなく、簡易な検査とするのであれば誰がどのようなツールで行い、そのツールの精度管理はどうするのか、歯周病や顎関節症と診断した後に事後措置(就業制限など)をかけるのかといった点を明確にする必要性が浮かび上がった。
本検討会は2023年12月5日に第1回が開催され、これまで労働安全衛生法に基づく一般健康診断の現状と課題、検査項目、女性の健康に関する事項等について話し合いが重ねられてきた。詳しくは下記。
・【厚生労働省】労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会