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ニュース・トピックス

本会家族計画研究センター2023年度事業実績報告

第844号

 2023年度最大のトピックスは、思春期婦人科外来を中心とした外来の閉院である(2023年冬号にて既報)。ユースクリニックの先駆けともいわれた本会の診療施設は、主婦会館クリニックの開設(1978年)から、保健会館別館での家族計画クリニック(1984年)、保険診療機関としての認可(1989年)、保健会館新館への移転(1997年)を経て、45年の歴史に幕を下ろした。3時間ほどの診療を週に2~3回というスローペースの中で、カルテの通し番号(利用した女性の総数)は7,498番だった。
 本稿では、年度途中の11月の移転のさなか、新しい環境下で滞りなく実施された相談事業の実績を中心に1年を振り返ってみたい。
 (本会家族計画研究センター長 杉村由香理)

着実に増えるLINE相談

 「 思春期・FP相談LINE」は相談件数がわずかではあるが、前年比105.6%と増加傾向にあり、徐々に浸透してきた感がある。男性の相談が増えたことが全体の相談件数の増加につながっている。男性の相談内容は、電話で対応していたときから3大悩み―「自慰」「性器」「包茎」―は変わらない。女性について言えば、妊娠不安と緊急避妊が目立つ(表1)。推測の域は出ないが、新型コロナが5類感染症に移行し、自粛していた人との触れ合いが戻りつつあることの影響も少なくない。避妊や性感染症、子宮頸がん予防などの啓発も、加速させなければならないことを示唆しているのではないだろうか。

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 LINEによる相談も開設3年になり、種々のデータが蓄積され、電話相談との比較などが可能になった(図1)。これを受け、第42回日本思春期学会において一般演題「中学生女子の自慰に関する相談内容~思春期LINE相談の事例から~」(松原由佳・杉村由香理・北村邦夫)、ポスターセッション「思春期LINE相談におけるニーズの分析~電話相談とLINE相談の比較から~」(松原由佳・杉村由香理・北村邦夫)を発表した。

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電話相談の意義

 富士製薬工業(株)から委託され実施している「EC・OCヘルプデスク」は利用者にとって分かりやすい名称にとの思いから「避妊のためのピル&アフターピル相談室」へと変更した。その効果が現れるには時間を要するのか、相談件数の伸びには至っていない(図2)。そのような中、LINE相談同様、緊急避妊の割合が増加しているのは興味深い。特に「服用方法」が2022年度の17.5%から20.1%へと増加傾向にある。相談カードを精査すると、オンライン診療、インターネット購入など、医師と対面することなくOCを購入し、服用開始に際し詳細な説明が受けられないユーザーからの相談が散見され、件数だけでは評価することができない(表2)。指導者と直接会話することへの安堵を実感してほしいと考えると、電話相談の役割が終わったとは言えない。本年度から、OC、ECの入手経路を問う項目を加えたので、アクセスの傾向をお示しできることと期待している。

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【コラム1】
 患者の処遇に時間を要するため、本会の事務所移転から遅れること1年。11月から本センターが幡ヶ谷での事業を本格始動させた。本年3月に移転前と同じ場所で婦人科が新規開業、しかもご厚意で週1回北村会長の外来日を設けてくださる。とはいえ5か月弱のブランクをどうするか、「紹介状を出すよ」という提案に、「いえ、先生に診ていただきたいので待ちます」と、結局紹介状は1枚も書かれなかった。連絡用に新しい事務所の電話番号を公表。利用者が用事のついでに「あの環境がなくなるのは残念」「新しいクリニックでメディカルスタッフとは会えないのか?」と口々に閉院を惜しんでくれる。治療だけが目的ではない関係性があったことに今更ながら気付かされる。寂しいのはお互いさま。幸い新しいクリニックでは電話番号がそのまま引き継がれたので、久しぶりに受診するなど、閉院を知らない患者さんが迷子にならないのはありがたい。


東京都 不妊・不育ホットライン

 「 東京都 不妊・不育ホットライン」 は、相談時間を延長し2年目になるが、電話がひっきりなしに鳴るのは従来の時間帯が多く、働く方にも利用しやすい時間にと夕方と土曜日を増設したことが、相談件数の増加に効果を上げているとの印象はない。しかし相談件数は563件と増加傾向にあり(図3)、不妊の当事者が相談を受ける不妊・不育ホットラインへの期待は大きい。相談内容には大きな変化はなく、「検査・治療について」182件、「家族に関すること」169件と抜きん出て多い(表3)。保険適用に関する相談は途切れることはなく、仕組みそのものの問いには、行政の担当部署を紹介することにしているが、「主治医に聞いても分からないと言われた」と、現場でもまだまだ混乱している様子が見受けられる。相談員によると、東京都の卵子凍結に対する補助金支給について、件数としては少ないが話題には上ることがあるとのこと。制度によって、女性たちの心が動くことも相談に影響するようだ。

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全国規模の調査を実施

 本会の公益事業の一環である「第9回 男女の生活と意識に関する調査」は、前回調査から7年ぶりに第9回調査を実施することができた。またジェクス(株)からの依頼で「【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2024」を実施した。
 両調査の結果から「女性ホルモン剤を利用した避妊法」「中絶を人生において必要な選択である」の割合が増したことなど、本会が推進するSRHRが徐々に浸透してきていることをデータで示せたことには大きな意義がある。メディアセミナーを実施したものの、報道されるのはセックスレス、少子化のみという現状。データを生かしながら積極的に発信していきたい。


【コラム2】
 移転を機に断捨離を図ろうと、デスクやキャビネットの中身を全部出した。山積みになった写真や資料、出張レポートやらを前に、片付けのタブーとされている「読む」を始めてしまったから、もう前には進まない。あんなこともあった、こんなこともあった、この方は今頃どうしておられるだろう…当時が鮮明によみがえり、懐かしさに浸る。そんな感慨にふけりながらの作業なのだから、市ヶ谷から幡ヶ谷へ荷物を移動しただけになってしまったのは、“引っ越しあるある”。新しい事務所の収納場所が多いことに感謝している今日この頃。


セミナーの存在価値

 「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー」は、企業の協賛を得て1999年から毎年テーマを変えながら開催し、25年を迎えた(表4)。昨年度は「withコロナ時代におけるSRHRの課題解決に向けて」と題し、全国8会場で実施することができた。スキルアップはもとより、会場に集まること、同じ問題意識を持つ仲間との交流など、本会が要になる形で、講師と参加者、参加者同士、参加者と企業をつないできた。本会への信頼と期待を肝に銘じ、本年度は「日本人のお悩み、徹底解決いたします!」のテーマで、講師総数17名で全国を回る。

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