本会の活動は、同じ方向に向かう仲間の存在によって支えられています。「YELL~エール※」は、そんな仲間を紹介する連載(不定期)です。当面はJFPA思春期保健相談士®(以下思春期保健相談士)の皆さんにご登壇いただきます。
※「YELL~エール」…互いにエールを送り合うような関係でいたい、そんな思いを込めて連載タイトルをYELL(エール)としました。
第4回目のゲストは長島史織さん(愛知県名古屋市・咲江レディスクリニック院長秘書/JFPA思春期保健相談士®)です。
聞き手:杉村由香理(日本家族計画協会家族計画研究センター センター長)
長島:咲江レディスクリニックの院長秘書長島です。よろしくお願いします。
――こちらこそ、よろしくお願いします。院長の丹羽咲江先生はよく存じ上げているのですが、医療職ではない歴代の秘書さんの働きを拝見すると、クリニックのスタッフとしてご活躍され、重要な役割を担っておられますね。どのような経緯で働くようになったのですか?
長島:NPOの活動でのつながりです。LGBTなどの相談業務や啓発活動がメインのグループです。
――そこで院長と出会ったのですね。現在大学院生と2足のわらじとのことですが、研究課題を伺ってもよろしいですか?
長島:「先端総合学術研究科」です。公共、生命、共生、表象の4つの領域の中の公共領域で「ジェンダーとセクシュアリティの社会学」というのがメインで、性的マイノリティをテーマの一つにしています。
――咲江レディスクリニックでは性的マイノリティの方の相談も積極的になさっていますよね。長島さんはどのような形で関わっておられるのでしょう?
長島:看護師の問診で希望されれば面談をします。ジェンダーの相談の方が多いのですが、性別をどうやって治療していきたいのかとか、折り合いつけていくのかということを一緒にプランニングする中で、うちではここまでお手伝いできます、それを求めているならこういった医療機関がいいかもしれませんと伝える―といったことにフォーカスを当てています。
――事務的に振り分けるよりも、長島さんのように関心があって勉強している方が最初のコンタクトを取ってくれるっていうのは心強いことですよね?
長島:実際、継続的に来てくれる方が結構増えて、最近ではXジェンダー(※注1)の方も来てもらえるようになったので、どんな相談ができて、こんなスタッフがいて、行きやすいクリニックだっていう風に思ってもらえるようになったのかなと思います。優しい院長なので働きやすいですし、院長自身もやっぱりいろんな人に来てほしいと思っているようです。女性にとって性をすごく良いもの、楽しいものと考えている人なので、明るい職場というか、いい雰囲気なのかな。幸せなことですね。
――思春期保健相談士はいつ取られましたか?
長島:前任者が持っていたこともあって勧められて2017年でしたか、東京・市ヶ谷の会場に行ったことを覚えています。
――まだコロナ前だから対面形式ですね。どうでした?周りの多くは医療専門職ばかりだったと思いますが。あっ今もそうですね。
長島:やっぱり医療のスペシャリストの人たち、特に婦人科の専門家が結構いるので、性別違和のない女性に対するアプローチとか思春期の女の子とかに対する考え方とかはすごく勉強になりました。性的マイノリティのことだけやっていると女性だけの困り事っていうのはあまり見えてこなくて。こういうところに困ることがある―と逆に考えるとレズビアンやバイセクシュアル女性にも当てはまることだなと学ぶことも多かったのでそれは良かったです。
――今の仕事にも生かせてもらえていますでしょうか?
長島:そうですね。行ってみて自傷をテーマに講義された松本俊彦先生をはじめ、いろいろな分野の先生の講演というのは今でも財産になっています。
――財産とまで言っていただけて光栄です。セミナー仲間と今でもつながっていますか?
長島:分野の違う方と一緒でグループワークの時はすごく盛り上がって、いろんな情報交換、勉強とかはさせてもらったのですが、残念ながらそれっきりになってしまっています。
――主催者としては他にいない職種の方が参加した時はフォローしないといけませんね。気付きをいただきありがとうございます。職場ではいかがですか?
長島:肩書としては院長秘書ですけど、ポジションとしてはちょっと不安定で、同僚から最初はなかなか理解が得られなくて、何であなたそこにいるんですか?みたいなことを言われたりもしました。自分の仕事や存在意義をクリニックの中で価値を同じく働く人たちに伝えるっていうのはすごく難しいことだと思うことはありました。
――今は変化していますか?
長島:性的マイノリティなどトランスジェンダーもすごく幅が広かったりとかしている中、最近クリニックに来る若い人は「ノンバイナリー(※注2)です」「女の子と付き合ってるので、そういうセックスしていません」とさらっと言うシーンがあって、スタッフが結構パニックになることがある時などに私の専門的なところでフォローして、こういう風に伝えてくださいとかサポートと言いますか、アシストができるのでそこは貢献できているかなと思います。得意分野で力が発揮できるようになってくると、そこで価値というか自分の居場所を見つけられて、クリニックの中で周囲も一緒に仕事をしている感じが出てきて、分からないことがあると聞いてくれたり、私も女性の身体のこととか質問して積極的にコミュニケーションが取れるようになりました。
――性的マイノリティに興味を持って研究をしようと思うきっかけは何だったのですか?
長島:大学生の時のジェンダー論の講義が結構衝撃で、高校が特に保守的なところだったので性教育もきちんと学んでこなくて、関心も低かったので特に問題はなかったのですが、大学入ってからジェンダー論で包括的に初めてジェンダーとかセクシュアリティとか性教育のことを学んだ時に、何で教えてくれなかったんだ!みたいな。学部1年生だったんですけどすごい、衝撃受けたのが最初です。もっと知りたいと思ってジェンダーやセクシュアリティに詳しい先生のところに、実は今の恩師なんですけれど、大学の外でも何かやりたいですって直訴したら、たまたまその先生が読んでいた新聞にトランスジェンダーの人が載っていて、コンタクトを取って、その方がなさっている交流会などに関わり始め、大学3年生の時から本格的にそのスタッフとして参加しました。最初は結構驚くことばっかりだったんです。交流会に来る人たちって基本的に明るい人たちばっかりなんです。一方、そもそも交流会に来られない、貧困であったり、メンタルとかいろいろ問題を抱えてるっていう人たちもすごく多くて、教科書とか大学の講義でも絶対学ばないような方とたくさん出会ったのがまた衝撃で。これをもうちょっと関わっていきたいっていう思いでした。今は結構アセクシュアルってすごく認知度が上がっていますが、当時は全然なくて、もっとこの人たちにフォーカスを当てていったらいろいろ分かるんじゃないかと思って、活動にも関わって勉強もしていきたいなと。
――その突撃する行動力がなければ、今の職場とのつながりもできませんでしたね。
長島:やっぱり人って思った時に動かないとダメなんだなっていうのは感じました。そうですね要所要所で結構大事な人というか、大きな人がつなげてくれたなっていうのはすごくそれが今の自分にもつながっています。かつての指導教官もよく受け入れてくれたなっていうのも。全然違う分野の先生なんですけど障害学をやってる先生が、「いいよ」と引き受けてくださいましたし。
――ところ月並みな質問ですが今、一番やりがいを感じることは何ですか?
長島:そうですね、やっぱり研究のことですかね。やっとアセクシュアルの認知度は広がってきたっていうのもあるんですけど、クリニックにいてスペシャリティでやっているものすごくいい現場だなと思っています。そういう中でセクシュアルな区別での違いをすごく知りたくて結構勉強してるんですけど、ヒントがたくさん転がってるのですごく楽しいとか、そういうことに気付くこと発見を言語化できるのはすごくやりがいを感じてるところですね。大学院生でいる間は今の働き方だと思います。幅広くやっている院長なのでサポートは今後もすごくしたいと思っていて、院長のことリスペクトしていますし。
――研究者が医療現場にいるって、双方強みになりますね。さて、これから思春期保健相談士を取得しようとする方に長島さんの視点でPRしていただけますか?
長島:インターネットが発達してきてSNSトラブルとか闇バイトとか新しい思春期の問題がでてきていますが、一方でずっと変わらない、アイデンティティ不安といった自分は何だろうとか、セクシュアリティもあったり、それはどんな時代になっても変わらないっていう問題があって、それをセミナーで学ぶっていうのはすごく私自身も良かったし、今の仕事で思春期の子たちから話聞く際にすごく役立っているのではと思います。最近親御さん世代が子どもの思春期の相談、それもいろいろ知識を持っておられるケースも増えているので、全く関わらない現場であってもどこかで必要になる可能性はあると思います。思春期のことは勉強しても損はないっていうかすごく大事なことなんじゃないのかなとは思います。
――医療行為には資格が必要ですが、相談や支援をする上では知識や意欲そして行動力が大事であることを、お話を伺いながら感じました。ありがとうございました。
※注1 性自認が男女のいずれにも当てはまらない人のことをいう。人によっては男性でも女性でもない無性だけではなく、両性、中性、不定性などがおり、Xジェンダーの中にもバリエーションがある。
※注2 身体的な性別や性自認において、男女の中間、どちらでもない、両方でもあるといった男女のみの2元的なカテゴリー(男女二元論)に当てはまらない人をいう。バイナリーは2つの要素で構成されているものを指す言葉で、性別のバイナリーは男女になる。日本ではXジェンダーが用いられるが、欧米圏ではノンバイナリーがよく用いられている。
★JFPA思春期保健セミナー®は、思春期の子どもに関わる指導者(専門職)のみが受講可能ですが、医療機関にて相談業務に従事しているなど、思春期の子どもに関わる業務に携わっている、かつ講師から推薦がある場合に限り、事務局判断により当該セミナーを受講していただくことが可能です。