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ニュース・トピックス

本会家族計画研究センター2022年度事業実績報告

第831号

 既報の通り日本家族計画協会は昨年10月をもって渋谷区幡ヶ谷に移転。家族計画研究センター・クリニックについては、本年10月末まで、市ヶ谷で相談事業と診療を継続することとしている。本会が主婦会館クリニック(四ッ谷)を開所したのが1978年10月、保健会館別館に「家族計画クリニック」を開設したのが84年5月、89年4月には、市谷クリニックが保険診療機関として認可され、現在の保健会館新館(リプロ・ヘルスセンター)での診療を97年11月に開始し、今日に至っている。本会が運営する診療施設は45年間をもってその役割を終えることになる。なお、各種相談事業や研修を中心として取り組んでいる家族計画研究センターは渋谷区幡ヶ谷に住所を移して活動を継続する。
 今号では、2022年度も主として新宿区の住民を対象とした新型コロナウイルス・ワクチン接種施設としての役割、2年目に入った「思春期・FP相談LINE」、主として経口避妊薬(OC)と緊急避妊法(EC)をテーマに実施している電話相談事業の実績などを報告するとともに、わが国のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利、SRHR)を巡る大きな出来事などを報告したい。
 (本会家族計画研究センター長 杉村由香理、本会会長 北村邦夫)

6か月から107歳まで、新型コロナウイルス・ワクチンを接種

 新宿区から委託された個別接種施設として、主として新宿区の住民を対象としてワクチン接種を続けている。接種日は、予約状況などを勘案しながら、診療日である火曜日、金曜日、第3土曜日などに限られるが、生後6か月から4歳まで46回、5歳から11歳23回、12歳以上346回、合計415回の接種を無事終了している。アナフィラキシーショックなどが発生した場合の緊急対応のための医療的な準備や紹介先の確保などを当然行ってはいるが、幸いなことに接種開始以来特段救急を要する事例を経験していない。
 11月には6か月から4歳児への接種が開始され、さながら小児科診療施設のような様相を呈する時間も増えた。初回接種では警戒心の強かった子ども達も、3回の接種で慣れてきたころに関係が絶たれてしまうのが些か残念な気持ちであった。子ども達の気持ちを紛らわせようと、上腕部をアルコール綿で拭く際、「冷たいよね」と声を掛けながら一挙に、しかも短時間で接種するのがコツとなった。印象深いのは、この年齢層の来所に際して、父親の姿が目立つことだ。父親の育児参加の一端が垣間見えるようで時代の変化を感じ取る瞬間でもあった。
 新宿区から届けられるワクチンを冷蔵庫から取り出し、接種30分前を目途に生理的食塩水で希釈。12歳以上は1バイアルから6人分を注射器に分注。5歳から11歳の場合には、小児用ワクチンを10人分に分ける作業からスタートする。小さなクリニックということもあり、接種人数が集まらないと廃棄することになる。国民の税金を無駄にするに等しいわけで、当クリニックでは、廃棄を極力回避すべく努めてきたが、第8波が収束する頃になると接種希望者数が激減。わが国のワクチン接種は、今後どうなっていくのだろうか。

エピソード①
 107歳の女性も5回の接種を終えた。初回接種時は106歳。70代半ばの息子さんとともに接種を求めて来たが、足腰はしっかりしていて診察室にもスタスタと入ってくる。106歳の方に初めて接したこともあり、記念写真を撮らせてもらったが、北村の膝に手を置きながら「久し振りに男を感じる」と言われた時には驚かされるだけでなく、微笑ましい気持ちになった。「長寿の秘訣ここにあり」か。

エピソード②
 クリニックの受付は、診察室の緊張とは無縁の時間です。動物好きのスタッフとは自然にペットの話で盛り上がります。「カメの食事風景が可愛いんです!」とスマホの動画を見せてくれる横で「うちのはウサギ」期せずしてウサギとカメが揃ったねと大笑い。患者さん同士が和気あいあいとコミュニケーションが取れるのも、思春期クリニックならではの光景です。

漸く市民権を得た?LINE相談

 1979年9月から開設してきた「思春期・FP(家族計画)ホットライン」を休止し、一昨年の4月からLINE相談をスタートさせてから丸2年が経過した(図1)。相談員にとっては、センターに出勤するなりPCの電源を入れ、LINE相談を確認するのが日課となっている。インターネットや厚労省研究班で製作した『#つながるBOOK』(https://www.jfpa.or.jp/tsunagarubook/)を通じてLINE相談の存在を知った方々からの相談が、2年目ともなると増えてきている。複数回のやり取りは件数に数えることにはならないが、相談総件数547件(男性194件、女性353件)。21年度が388件(男性124件、女性264件)であることから、150件ほどの増加となっている。

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  LINE相談の概要は以下の通り。
  1. 質問曜日:日曜日(41件)、月曜日(107件)、火曜日(87件)、水曜日(83件)、木曜日(105件)、金曜日(85件)、土曜日(39件)で、電話相談とは異なり、いつでも相談を送れるメリットがある。回答は、月曜日が163件で最多。
  2. 未既婚の別:未婚が285件で99.3%を占める。
  3. 職業:高校生(209件)、中学生(155件)、大学生(90件)、社会人(25件)、小学生(24件)の順。仮に親が電話をかけてきても、「小学生」に関する悩み相談では、「小学生」に分類される。
  4. 年齢:15~19歳が339件で最多、次いで10~14歳128件、20~24歳66件で、20歳未満が全体の85.9%(男性86.6%、女性85.6%)を占めている。
  5. LINE相談をどこで知ったか:インターネット403件、学校32件、その他42件。『#つながるBOOK』(https://jfpa.or.jp/tsunagarubook)も11件となっている。インターネットからの回答は男性72.2%、女性74.5%と大差がなかった。
  6. 相談者は本人が526件(男性182件、女性344件)と最多、次いで母親16件。
  7. LINE相談での性別にみた相談内容を表1にまとめた。

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電話相談とLINE相談、その特徴の違いは?

 手探りで始まった一昨年度のLINE相談に比べて、相談員の対応も大分手慣れてきたこともあり、2020年度の電話相談と22年度のLINE相談との比較を試みた。電話相談についても同様だが、LINE相談では“なりすまし”なども想定され、特に性別や年齢などについては極めて信ぴょう性が低い可能性があることを踏まえた読み解きが必要になるかも知れない。それを踏まえた結果、

  1. 電話に比べてLINEでは女性からの相談が男性を圧倒している。:電話相談(男性77.7%、女性22.3%)、LINE相談(男性35.5%、女性64.5%)。総務省情報通信政策研究所が21年8月に発表した「令和2年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、インターネットの利用者のうち、LINEについては女性が幾分か男性を超えているが(男性88.0%、女性92.7%)、本会LINE相談の男女比はそれをはるかに超えている。
  2. 電話に比べてLINEでは年齢でも顕著な違いが認められる。:電話相談の平均年齢17.2歳(男性16.5歳、女性19.9歳)、LINE相談は16.3歳(男性16.2歳、女性16.4歳)でLINE相談では女性が低年齢化している。また、年齢を反映してか、男性ではLINEでの高校生(電話53.4%、LINE40.2%)、社会人(電話5.8%、LINE2.1%)の割合が低く、中学生(電話25.0%、LINE30.9%)、小学生(電話2.0%、LINE2.6%)が高くなっている。これも男女差と同様、LINE利用率を反映している可能性が高い。
  3. 電話に比べてLINEでは、「インターネット」を情報源としている割合が少ない(電話94.2%、LINE3.7%)、一方、「学校」「#つながるBOOK」からが7.9%(電話1.0%)と目立っている。

エピソード③
 LINE相談を始めて気付いたことがあります。文字で伝えることの難しさ、既読が付かないもどかしさを双方で感じた時や、受診の後押しが必要な場合など、相談員は直接話せたら、1分もかからないのにと、やきもきしています。耳に残る性的通話や無言電話のストレスからは解放されたものの、電話とLINEそれぞれに使い方、生かし方があるのかもしれません。

「東京都不妊・不育ホットライン」開設時間を増設

 1996年度から東京都が開始した「生涯を通じた女性の健康支援事業」の一環として、本会が受託した「東京都不妊ホットライン」(現在は「東京都不妊・不育ホットライン」03-3235-7455)。2022年度からは、不妊治療と仕事の両立サポートや不妊治療の保険適用化に伴い、相談時間を拡充。従来は火曜日午前10時から16時に限っていたが、これを19時まで。さらに第3土曜日の10時から16時を新設。8月は第2土曜日(13日)・10月は第4土曜日(22日)に開設した(図2)。

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  以下、相談の概要をまとめた(表2)。
  1. 開設日数は1年間で61日。相談件数は532件(不妊相談466件、不育相談は66件)
  2. 性別:男性79件、女性453件。最近では男性からの相談が増加傾向にある。
  3. 相談内容のあらましを表に示した。相談を受けた相談員の判断で、複数の項目にチェックが入ることがあるが、不妊相談では「検査・治療について」が最多で169件、次いで「家族に関すること」146件が続く。不育相談は「検査・治療について」34件、「不妊治療と仕事の両立について」27件となっている。

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 2022年度、東京都の依頼によって、不妊・不育ホットラインカウンセラーによる「相談エッセイ」が連載された。これは、東京都福祉保健局妊活課「妊活支援ポータルサイト」(https://www.ninkatsuka.metro.tokyo.lg.jp/)に掲載されたもので、実際に電話相談に応じている女性カウンセラーによるエッセイということもあり一読の価値がある。都民からの高い評価を得ているとともに、このエッセイを目にした方からの相談が届いている。
  第1回 不妊・不育は繊細な喪失体験。心へのいたわり、大切です。
  第2回 治療への初めの一歩〜医療機関探しについて~
  第3回 不妊治療と仕事との両立~仕事を続けるべきか、辞めるべきか~
  第4回 夫婦が試される時―不妊というハードル
  第5回 声を上げにくい「2人目不妊」
  第6回 不妊・不育に絡めとられないで あなた自身を大切に(最終回)

エピソード④
「東京都不妊・不育ホットライン」は圧倒的に女性の利用が多いのですが、ここ最近、男性からの相談も散見されるようになりました。周囲との人間関係、治療への迷いなど、相談項目どれをとっても必ずしも女性特有ではないのかもしれません。いずれにせよ当事者を孤立させないことは欠かせない支援であり、その一助を担えることはホットラインの誇りでもあります。

「EC・OCヘルプデスク」、相談件数はやや低調

 富士製薬工業(株)から委託された「EC(緊急避妊薬)・OC(低用量経口避妊薬)ヘルプデスク(03-6280-8404)」を2014年7月から開設しており、22年3月までに6,788件の相談が寄せられている。22年度の相談実績は394件とやや低調であるが、次年度以降、緊急避妊薬のOTC(薬局販売)化などがスタートした際、服用者だけでなく薬剤師からの相談を受けられる体制を整備する準備を開始している。22年度の概要を以下にまとめた(表3)。

  1. 相談総件数394件のうち、月曜日から金曜日の10時から16時まで開設している電話相談だが、10時台が最多で100件(25.4%)。緊急避妊情報など開設時間を待っていましたとばかりの相談となっている。
  2. 相談者の年齢は、25~29歳が103件(30.1%)で最多。次いで20~24歳86件、30~34歳79件、35~39歳54件で、20歳代と30歳代で全体の81.7%を占めていて、わが国におけるOC服用者の主たる年齢がこの世代であることを物語っている。
  3. 年代別の相談内容について表3にまとめた。

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指導者のための避妊と性感染症予防セミナー(SRHセミナー)を全国8会場で開催

 家族計画研究センターが主導しているセミナーには全国の産婦人科医とクリニック・スタッフを対象とした「女性医療セミナー」、避妊教育ネットワーク会員向けの「女性保健医療セミナー」、OC(経口避妊薬)が承認発売された1999年から継続開催している「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー(SRHセミナー)」などがあるが、ここでは、新型コロナウイルス感染症対策を十二分に施しながら全国8会場での現地開催にこだわり続けてきたSRHセミナーを振り返りたい。幸運なことに、参加者からの感染報告は事務局宛に届いてはいない。
 2022年度のSRHセミナーは、第179回から第186回を開催。「女性活躍を応援する」をメインテーマに、「女性活躍を阻害する要因とは何か?」「女性活躍を可能にする女性ホルモン製剤」「女性活躍を応援する性教育の実践」。このセミナーを通して「女性活躍とはいったい何か?」について深く考えさせられることになった。22年の日本のグローバル・ジェンダー・ギャップ指数(GGGI)は、世界146カ国中116位。政治、教育、健康、経済を総合的に評価したものであるが、30年近く国際機関での勤務経験のある講師からは次のような意見が寄せられた。
 「GGGIについては、日本のメディアは、騒ぎ過ぎであると思っています。GGGIは単なる一つの指標に過ぎず、そのランキングに一喜一憂するのはいかがなものでしょうか。日本の順位が低いのは、女性の政治参加が進まないからであって、他の側面(教育や健康)に関しては、かなりの上位に位置します。使われているデータ、ウェイトの賭け方の問題を指摘する人もおりません。それなのに、ごった煮にしたような数字を使って、日本女性の地位が格段に低いと単純に脚色されることには、強い違和感があります。日本に帰国して、日本人とはつくづく、自虐的に自分たちを捉えることが好きな民族だと感じます。すみません。あくまで私見です」
 セミナーの参加者数などについては、別添資料をご覧いただきたい。

エピソード⑤
 テーマを「女性活躍を応援する」と銘打ったものの、“活躍”の定義をお示ししないままスタートした指導者のための避妊と性感染症予防セミナー(SRHセミナー)。回を重ねながら答えを探していたように思います。女性特有の体や、社会の慣習で何かを諦めることがない社会の実現を願いつつ、全国を行脚いたしました。「自分が輝いている!と自分で思えること」私が抱く活躍の姿です。

わが国のSRHRが大きく変わろうとしている?

 家族計画研究センターでは。緊急避妊薬のOTC(薬局販売)化を審議する第20回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(4月28日)に、本会クリニックの緊急避妊外来受診者の傾向についての情報を提供することができた。個人情報保護の制約から詳細を紹介することはできないが、「緊急避妊薬服用の背後に同意のない性交あり」を実感することとなった。「性交のたびに、緊急避妊薬を飲むように渡されだらだら出血が続き、駆け込んできた女性」「飲み物に睡眠剤を入れられたいわゆるデートレイプ」、など。診療の場であるからこそ知り得た情報をきっかけに、緊急避妊薬服用女性に向けて付き合い方の行動変容を促すことができたが、果たして薬局の窓口で可能か、など不安がないわけではない。今後は、従来にも増して薬剤師との有機的な連携を図っていきたい。
 悲願であった経口人工妊娠中絶薬についても大きな動きが起こっている。結論を急げば、2023年4月28日に製造販売が承認されたのだ。21年12月に英製薬会社ラインファーマが開発した中絶薬「メフィーゴパック」について承認を申請。以降、紆余曲折を経て承認へと漕ぎ着けることができた。今後、この薬剤をどう扱っていくのか。日本人はこれを受け入れていくのか。課題は山積している。
 13年6月に積極的接種勧奨が控えられてから9年。HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)については22年4月から積極的接種勧奨が再開された。定期接種の機会を逸してしまった誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日の女性ついても、無料での接種が行われることになっている。さらに、9価のHPVワクチン(『シルガード9』)についても定期接種の対象となったことも朗報と言える。
 このように大きく変わろうとしているわが国のSRHRについては、2023年度の「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー(SRHセミナー)」に参加されて更に研鑽を積んでいただけたら幸いである。メインテーマは「withコロナ時代におけるSRHの課題解決に向けて」。

別添資料 家族計画研究センター・クリニックの活動(2022年度)(PDF)



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