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経口人工妊娠中絶薬、5月正式承認へ―厚労省

第829号

 4月21日に開催された厚生労働省の薬事・食品衛生審議会薬事分科会は、英国企業ラインファーマの「メフィーゴパック(ミフェプリストン/ミソプロストール)」の承認を了承した。5月にも正式に承認される見通しで、わが国では初めての経口人工妊娠中絶薬(以下、中絶薬)となる。長年にわたって中絶薬の早期承認を求めて取り組んでこられた本会北村邦夫会長に、承認への感想や今後の課題などについて聞いた。(杉村由香理本会家族計画研究センター長)

Q)北村会長は「僕の人生最後の仕事は中絶薬の承認を勝ち取ることだ」と常々おっしゃっておられましたが、ついに承認されましたね。おめでとうございます。

A)わが国では経口避妊薬が研究者の間で話題になってから44年、緊急避妊薬は11年かかっていますが中絶薬については37年を要したと考えています。

Q)フランスと中国が中絶薬を承認したのが1988年と伺っていますが、それ以前から日本では話題になっていたということですか?

A)そうなのです。日本家族計画協会(以下、本会)は、1986年から「受胎調節法の進歩に関するシンポジウム」を本会医学委員会が中心となって開催してきましたが、実は同年11月8日に開催された第1回目のシンポジウムでは、スウェーデンからマルク・ビグデマン教授をお招きして「プロスタグランディンと抗プロゲステロン」というテーマで講演が行われています。これこそ、今回承認された「ミソプロストールとミフェプリストン」なのです。翌年10月24日の第2回目のシンポジウムでも、「Anti-progestagens: basic research and clinical aspects(抗プロゲスターゲン:基礎研究と臨床的側面)」 の講演が組まれています。その講演などを契機に、故我妻堯先生(本会医学委員会委員)を中心に中絶薬開発に向けた研究が進められていたと聞いています。残念ながら承認申請がなされたという話はありませんが。

Q)そうなのですね。ということは、経口避妊薬、緊急避妊薬そして中絶薬についても本会は先駆的な役割を果たしてきたということですね。

A)その通りです。でも相変わらず日本では女性のSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)は軽視されていたわけです。 個人的な話をして恐縮ですが、ラインファーマ社(当時)の創設者であったアンドレ・ウルマン社長から、日本での中絶薬開発の話が持ち上がり、僕が国内企業との仲介役を買って出たのが2010年12月。ラインファーマ社とは、日本に緊急避妊薬「ノルレボ錠」を持ち込んできたフランスHRA社の同系列の企業なのです。残念ながらこの話は3年間ほどを経てポシャってしまったのですが…。その後は、僕の方はフランス・ノルディック社と開発を進めてきました。

Q)ところで、今回承認された「メフィーゴパック」についてですが、どのようなお薬なのですか。

A)「メフィーゴパック」とは、妊娠の継続に必要なプロゲステロン(黄体ホルモン)の働きを抑える「ミフェプリストン」と、子宮収縮を促す「ミソプロストール」を組み合わせたお薬です。妊娠9週といいますから、63日までに「ミフェプリストン」200mgをまず服用し、その後36~48時間後に、バッカル錠4錠(ミソプロストールとして計800㎍)を左右の臼歯の歯茎と頬の間に2錠ずつ30分間静置し、唾液でゆっくりと溶かして口腔粘膜から吸収させます。第三相試験の結果によれば、ミソプロストール投与後、24時間以内で93.3%中絶が完了していました。有害事象発現率は59.2%、下腹部痛30.0%、嘔吐20.8%と報告されています。

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Q)中絶薬の承認というのは、北村会長にとっては感慨深いものがありますよね。

A)選択肢が増えることに対する期待はとても大きいものがあります。今までですと、ご存じのD&C(子宮頸管を拡張し子宮内容物を掻爬する方法)と吸引法が行われていたわけですが、これに薬による中絶法が加わる意義は大きいですよね。でも、手放しで喜んでばかりではいられないです。

Q)何か問題があるのですか?

A)中絶薬ってあたかも夢の薬のように思われていますが、指示通り飲めば簡単に中絶ができるわけではありません。確かに、9割以上が24時間以内に中絶が完了していますが、その間に、「重い月経」なんて表現をしますが、結構強い痛みを訴える人がいます。もちろん、事前に鎮痛剤を渡しておくことで痛みから解放される方はいますが・・・。出血もそうですね。D&Cや吸引法に比べるとその期間が長引く可能性が高い。妊娠9週ともなると胎児の大きさは22~30㎜と言われ、見た目は人間のミニチュアそのもの。それが出血とともに排出されることで中絶が完了するわけですが、事前にしっかりとした情報提供がなされていないと、相当驚かれるのではないでしょうか。もちろん、事前検査も基本的に不要ですし、手術前に麻酔をかける必要もない。妊娠・出産経験のない方では、ラミナリアやダイラパンという用具を挿入して子宮の入り口がゆっくりと開く操作をしますが、その必要もありません。

Q)事前の情報提供というか性教育が必要だということはわかりましたが、具体的にはどうしたらいいのでしょう。

A)本会は2002年から日本人の性意識・性行動の全国調査を行ってきていることはご存じですよね。直近2016年の調査結果によれば、中絶を経験した女性に向けて「最初の人工妊娠中絶を受ける時の気持ち」を聞いています(図1)。僕としては、SRHRの視点から「人生において必要な選択である」との回答が大半を占めて欲しいと願って調査をし続けてきましたが、残念ながら「胎児に対して申し訳ない気持ち」が58.6%とダントツの一位。「自分を責める気持ち」「人生において必要な選択である」がそれぞれ17.1%となっています。中絶に対してネガティブな感情を抱いている女性が、現在もなお大半だということです。だから、「いつもの月経よりも重い」という指導だけでは不十分だと思っています。「中絶を選択することの意味」をしっかりと受け止められる女性であって欲しいわけです。そうでないと、お一人で、おそらく家で中絶が完了した際に、どのような気持ちで受け止められるか些か心配しています。

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Q)そんなこともあってか、今回の薬事審議会での承認条件?には、「適切な使用体制が確立されるまでの当面、入院可能な有床施設での入院か。院内待機を必須とする外来で使用する」となっていますよね。

A)はい。第三相臨床試験もそのような条件で行われていますので、そうなりますよね。でも、世界では80を超える地域・国で既に中絶薬を承認・発売されていますが、入院を要するという条件を付けている地域・国があることを知りません。これでは、中絶薬に対するハードルが相当高くなり、中絶薬が発売されても恩恵を受けられる女性が増えるとは考えられません。可及的速やかに、母体保護法指定医のもとで入院などをしないで中絶ができる体制が整えられることを願っています。

Q)ところで、中絶薬は今後普及していくのでしょうか?

A)D&Cや吸引法などいわゆる器械的中絶法がベストだとは考えていません。中絶を受ける女性への身体的、心理的負担が軽減されることがとても重要だという意味では、冒頭申し上げたように中絶薬が選択肢のひとつとして加わることはとても大切です。問題は、日本の産婦人科医が今まで修得してきたD&Cや吸引法を2番手にできるかどうかです。習熟した技術をもって清潔な環境下で行われる10~15分ほどの時間で完了する手術。これが簡単に器械的中絶法から中絶薬へと変わっていくようには思われないのです。経費の問題もありますしね。

編集部)ということは、今しばらく中絶薬の動向に目が離せませんね。本日は、どうもありがとうございました。

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