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ニュース・トピックス

本会家族計画研究センター2021年度事業実績報告

第819号

 2021年度、家族計画研究センターで展開された事業のうち注目すべきは、主として新宿区の住民を対象として行った新型コロナウイルス・ワクチン接種がある。接種施設として新宿区から認可された21年6月から本年3月末までに延べ645人の接種を終えている。41年間続けてきた「思春期・FPホットライン」を休止し、「思春期・FP相談LINE」をスタートさせたことも注目に値する。相談件数は延べ388件。今号では、21年度の事業を振り返るとともに、わが国のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利、SRHR)を巡る大きな出来事などを報告したい。 (本会家族計画研究センター長 杉村由香理、本会会長 北村邦夫)

新型コロナウイルス・ワクチンの個別接種施設として

 新宿区から認可された個別接種施設として、6月から主として新宿区の住民を対象としてワクチン接種を始めた。接種日は、予約状況などを勘案しながら、診療日である火曜日と金曜日の午前中とした。新宿区の広報に本会の名前が載るや、クリニックの電話は朝から夕方まで鳴り止まないほどの日々が続いた。しかし、小さなクリニックでの受け入れには限界があるのは当然で、「既に予約でいっぱいです。他の施設を当たってください」と断る電話や「ワクチンの供給が約束されていませんので、予約をとることができません」などの回答が大半。ワクチン接種体制の不備がメディアでもしばしば話題になっていたが市井の個別接種施設でも甚大な被害を被ったといっても過言ではない。
 本会が扱ったのはファイザー社製ワクチン。区から事前に届けられたワクチンを冷蔵庫から取り出し、接種30分以上前に生理的食塩水で希釈。12歳以上は1バイアルから6人分を注射器に分注。5歳から11歳の場合には、小児用ワクチンを10人分に分ける作業からスタートする。1日の予約枠は12歳以上が最大24人、小児の場合は最大10人。接種が無料であることもあってか、突然のキャンセルが入ると本会職員などに声を掛け、極力破棄することがないように努めた。もちろん、それにも限界があり、職域接種や集団接種と個別接種の棲み分けが機能しないこともあり、接種者を確保することが困難な事態さえ起こっている。4回目接種が始まるとの情報もあるが、今後も振り回されることになるのだろうか。

エピソード①
 思春期婦人科外来を銘打ってスタートした本会のクリニックに、老若男女が押しかけてきたワクチン接種。85歳だという男性に連れだって奥様も受診された。ご自身の昔の仕事をこの時とばかり堰を切ったように話し続ける男性。こちらは、ただひたすら相づちを打つばかり。「また来ていいかね?」「ここは婦人科ですから」と答えると、「じゃあ、私はいいですか」と横から声がかかる。老夫婦は人恋しくもあるのだろうか。でも、自称婦人科医である自分もまんざらではない。「ひょっとして僕は高齢者医療向きなのかしら」と、ワクチン接種の機会を通して自分の才能を見直す機会となった。

エピソード②
 ワクチン接種後15分を経過しても誰も帰ろうとしない。30分に6人の予約を入れていることもあり、次の予約者が加わって、クリニックの待合室は大混乱。実は、7月13日(現地時間12日)、テレビではコロラド州デンバーのクアーズ・フィールドでオールスターゲーム前日恒例のホームラン・ダービーが行われており、日本人選手では初出場となったエンゼルスの大谷翔平が出ていたのだ。個別接種会場ならではの光景を垣間見ることになった。

エピソード③
 「きょうは何しに来たの?」「ワクチン打ちに」。「どんなワクチン?」「コロナウイルスに感染しないように、人に感染させないようにするためのワクチン。ウイルスが入ってこようとすると、それに蓋をしちゃうんだよ」と。祖父から聞いたという7歳。流石セレブの住む市ヶ谷界隈の子どもだ。でも、ワクチンを打つ順番が迫ると弱気になり、表情も暗く。ちょうどその時だった。登校班で一緒だという同級生の女の子の姿が見えた途端、「痛くないもんねえ」と強がりの態度を見せた。子どもも大人の男女と一緒だ。

LINE相談、1年間に388件

 昨年4月からLINE相談がスタートし1年が経過した。本会では、1979年9月から「思春期・FP(家族計画)ホットライン」を開設しており、この領域では先駆的な役割を果たしてきた。そんな自負もあってか電話相談を休止することには内部でも異論がなかったわけではない。しかし、図1のように、相談件数が年々減少していたこと。相談員を辟易させる男性からの性的通話が後を絶たないことなどもあり現代の若者達に馴染みのあるコミュニケーション・ツールであるLINEを使った相談を進めてみようということになった。相手の声を耳にしながらの受け答えが可能な電話相談に比べて、文字を追うだけのLINE相談。それぞれに一長一短があることを実感する一年間であった。

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 LINE相談の利点を活かして、回答に際しては、2人以上の目を通してから返信するというルールを作っている。「質問には専門の相談員が、平日の10時~16時の間に到着順に回答します」との但し書きがあることから、「回答が遅い!」などのクレームが届くこともなかった(図2)。

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 以下、LINE相談の概要をまとめた。

  1. 相談件数については、同一人が同一テーマで繰り返しLINEしてきている場合は1件。同一人であっても、テーマが変わった場合には1件を加えることとした。往復回数は平均1.44回(最大8回)。
  2. 性別:男性124件(32.0%)、女性264件(68.0%)で、電話相談と性別割合が逆転している。
  3. 質問曜日:日曜日(29件)、月曜日(79件)、火曜日(60件)、水曜日(75件)、木曜日(57件)、金曜日(59件)、土曜日(29件)というように、電話相談とは異なり、いつでも相談を送れるメリットがある。回答は、月曜日が118件で最多。
  4. 未既婚の別:未婚が285件で73.5%を占める。
  5. 職業:高校生(108件)、中学生(74件)、大学生(30件)、社会人(17件)の順。
  6. 年齢:15~19歳が255件で最多、次いで10~14歳69件、20~24歳46件。
  7. LINE相談をどこで知ったか:インターネット(128件)、学校(16件)、不明(220件)など。学校と回答した者は「#つながるBOOK」(https://jfpa.or.jp/tsunagarubook)から情報を得たと思われる。
  8. 相談者は本人が374件と最多、次いで母親9件、父親2件。
  9. 性別にみた相談内容(表1

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「東京都不妊・不育ホットライン」ニーズは変わらず

 1996年度から東京都が開始した「生涯を通じた女性の健康支援事業」の一環として、本会が受託した「東京都不妊ホットライン」(現在は「東京都不妊・不育ホットライン」(03-3235-7455)。相談件数は年々減少傾向にあるものの(図3)、毎週火曜日の午前10時にオープンする電話相談を待ち望む方々は決して少なくない。なお、22年度からは、不妊治療と仕事の両立サポートや不妊治療の保険適用化に伴い、相談時間を拡充。従来は火曜日午前10時から16時に限っていたが、これを19時まで。さらに土曜日を新設。通常は第3土曜日だが、8月は第2土曜日(13日)・10月は第4土曜日(22日)を計画している。

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 以下、相談の概要をまとめた。

  1. 開設日数は1年間で48日。相談件数は485件(不妊相談407件、不育相談は78件)。
  2. 性別:男性55件、女性430件。最近では男性からの相談が増加傾向にある。
  3. 相談内容のあらましを表2に示した。相談を受けた相談員の判断で、複数の項目にチェックが入ることがあるが、不妊相談では「検査・治療について」が最多、次いで「家族に関すること」が続く。不育相談は「検査・治療について」「不妊の原因」となっている。

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 いくつか、相談事例をピックアップしてみよう。個人情報保護を考慮して年齢を明記せず、内容を抽象化している。

不妊の原因」:
 不育症の検査の結果が出て、妊活がつらい、化学流産を含めて2回流産、不育の検査をしたほうがいい、セックスはしているが子どもができない。
検査・治療について」:
 流産をして不育症の検査をしては、と医師に言われたがどうしたら良いか、3人目の治療に残りの胚を使うか採卵するか、もうあきらめるか悩む。
医療機関情報について」:
 不育症の病院を紹介してほしい、なかなか結果が出ないので転院したいのだが。
主治医や医療機関に対する不満」:
 受診を拒否された、医療者に傷つく言葉を言われストレスがたまる。
偏見や無理解による不満」:
 ご近所の方からの「2人目は?」の言葉に傷ついている、2人目不妊、肩身が狭い、周りのことに敏感になってしまう。
家族に関すること」:
 2人目が欲しいが夫と意見が合わない、夫が院内採精を嫌がって説得しないといけない。
費用や助成制度について」:
 自由診療での凍結胚を用いての保険診療が可能か、治療の進め方や助成制度について聞きたい。
不妊治療と仕事の両立について」:
 不妊治療していることを職場にどのように伝えたら良いか、不妊治療しながら仕事をする上で聞きたいことがある、体外にステップアップを考えているが、仕事をやめようか迷う。

「EC・OCヘルプデスク」、21年度は734件

 EC(緊急避妊)、OC(低用量経口避妊薬)に特化した電話相談は、現在唯一富士製薬工業(株)から委託された「EC・OCヘルプデスク(03-6280-8404)」を開設している。2014年7月から始まったこの電話相談には22年3月末までに6,394件の相談が寄せられている。21年度の概要を以下にまとめた。

  1. 10時から16時まで開設している電話相談だが、10時台が最多で180件(24.5%)。緊急避妊情報など開設時間を待っていましたとばかりの相談となっている。
  2. 相談者の年齢は、20~24歳が195件(23.8%)で最多。次いで25~29歳175件、30~34歳160件、35~39歳104件で、20歳代と30歳代で全体の86.4%を占めていて、わが国におけるOC服用者の主たる年齢がこの世代であることを物語っている。
  3. 年代別の相談内容について表3にまとめた。

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2021年度、わが国のSRHRを巡って起こったこと

 一つは、長年の懸案であったHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)の積極的接種勧奨再開への道筋が立てたられたことだ。22年4月から再開されるが、ここまで8年の月日が経過してしまった。定期接種の機会を逸してしまった女性については、無料での接種が行われることになっている。二つ目は、経口妊娠中絶薬の承認申請が12月になされたことを挙げたい。本会がサポートしてきた中絶薬の承認申請が先を越されてしまったことは残念だが、安全・安心な中絶薬の開発を後押しし、日本人女性の手に速やかに届けられることを希望してきた本会としては、早期承認が実現することを待望したい。三つ目は、緊急避妊薬の薬局販売(OTC化)を進めるための議論が再開したことである。本会はNPO法人HAPと協働で12月に全国の薬剤師対象の調査を実施し、OTC化を前向きに推進するための参考資料として「第20回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」(22年4月28日)に提供することができた。

別添資料① 家族計画研究センター・クリニックの活動(2021年度)(PDF)

別添資料② 緊急避妊薬供給体制に関する保険薬局実態調査結果(PDF)



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