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ニュース・トピックス

本会家族計画研究センター2020年度事業実績報告

第807号

 1978年10月に本会クリニックの前身である主婦会館クリニックを開所。79年9月、電話相談を開始している。1981年に思春期保健セミナー(現JFPA思春期保健セミナー®)をスタートさせたが、本年3月末までに9,353名の思春期保健相談士®が誕生している。84年5月には東京・市ヶ谷にある保健会館別館で思春期婦人科を中心とした診療と相談事業が始まり、2007年4月に保健会館新館に家族計画研究センターを設置することに合わせて、診療と相談事業も移転。現在に至っている。
 このように、本会は、わが国における思春期保健対策の先駆的な役割を果たしてきたといっても過言ではない。このうち、思春期を対象とした電話相談(現在は「思春期・FP相談LINE」)が3月末をもって幕を閉じた。感慨もひとしおであるが、今号の事業実績報告では、この電話相談などを中心に報告したい。 (本会会長・本会クリニック所長 北村邦夫)

「思春期・FPホットライン」41年の歴史に幕


 1979年9月にスタートした電話相談だが、本年3月末をもって41年の歴史に幕を閉じることとなった。筆者が、本会に赴任したのが88年のことだから、本年3月末で33年になるが、赴任以来データベースを整えて、「思春期・FPホットライン」を追いかけてきた。図1にあるように、この33年間に受けた相談は146,118件(男性86,443件、女性59,675件)。1年間の平均相談件数は4,428件(男性2,620件、女性1,808件)であるが、2010年度以降4千件を割り低迷を続けている。直近20年度を見ると、総数1,961件のうち男性1,523件、女性438件となっており、明らかな減少となっている。しかも、日頃のやりとりを聞いていると、男性からは性的通話、例えば、電話口でマスターベーションの音声を相談員に聞かせようとする、年齢詐称と思われるものなど、いたずらと思われる相談が相次いでおり、電話相談継続の意義が薄れていた。既報の通り、4月以降はLINE(ライン)を用いた相談事業が展開されている。

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 01年~20年度の20年度間における相談件数75,473件を、前半30,545件(01~05年度)と後半8,555件(16~20年度)の2群に分けて相談内容の傾向などについて探ることとした。

  1. 性別:男性の割合が、前半では63.1%、後半74.4%と、男性の割合が11.3ポイント増加している。
  2. 相談時間帯:前半は10時台が27.4%と圧倒していたが、後半は平均化するものの、15時台が21.9%と全体の中では増えている。
  3. 相談者の住所地では、東京都が前半39.7%、後半31.3%。東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県を除くと、その他地域が前半27.7%、後半44.3%と、最近では、以前よりも全国的な電話相談へと発展している。
  4. 相談時間:前半は5分未満が44.5%、後半59.3%だが、10分未満まで加えると、前半77.8%、後半89.8%で、最近の相談時間は短縮傾向にある。
  5. 5歳階級別で年齢分布をみると、前半、後半ともに15~19歳が最多で、それぞれ50.8%、66.6%。20歳未満で見ると、前半60.7%(男性76.4%、女性34.0%)、後半82.3%(男性93.6%、女性49.4%)で、最近は相談者の年齢が若年化傾向にある。この年齢層を反映してか、未婚者が前半91.3%、後半98.2%とおおむね未婚者対象の相談となっている。
  6. 男性と女性の相談主訴の変化については表1の通り。自慰、包茎、性器といういわゆる男性にとっての三大悩みは、順位の変動が多少あるものの、変わらない。妊娠不安の相談は前半にはなかったが、後半では2.3%となっている。女性についても、本会の電話相談で初めて緊急避妊相談が始まったのが2000年度からであり、この20年度間では、相談のトップを占めている。興味深いのは、前半ではピル相談が0%であったものの、後半は13.0%と増加し、20年度には相談順位で3位になっている点、月経相談が減少傾向にあることなどが注目される。

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「OCヘルプデスク」が7年を経過


 2014年度からスタートした「OCヘルプデスク」は、緊急避妊薬である「レボノルゲストレル錠1.5mg「F」が発売された19年度から「EC・OCヘルプデスク」として再出発している。ちなみに、ECとは緊急避妊薬(emergency contraceptives)、OCは経口避妊薬(oral contraceptives)の略語で、ECで終わりでなくECは次なる確実な避妊法への行動変容を促すスタートだということで「EC・OCヘルプデスク」と呼び、相談電話番号03-6280-8404の末尾「8404」は「8(ハ)4(ヨ)0(O)4(C)」を意図している。

  1. この7年度間を概観すると、女性がほぼ100%を占めている。相談電話には、男性からの相談が寄せられることが多いが、筆者が10年に英国・ロンドンの薬局での原体験が今もなお根強く支配している結果である。先進国でどのようにECが扱われているかを学ぶための渡航であったが、英国の薬局でECを求めた筆者には、「あなたは男性ですからお売りできません」とけんもほろろに断られてしまった。その理由を尋ねると、「男性が女性に緊急避妊薬の服用を強要することがあってはならないからです」と。以来、EC相談に男性から「緊急避妊薬はどこで手に入れられるか」の問い合わせがあった際には、「最終月経などいろいろ聞きたいことがあるので、パートナーから電話をさせて下さい」と促すようにしている。実は、男性が電話をしている隣にいることが多いが、コンドームの破損、脱落、腟内残留などのトラブルは男性に責任があり、男性としては速やかに責任を回避したいとばかりに、「EC・OCヘルプデスク」に助けを求めるのだろうが、服用するかどうかを決めるのは女性だということについて本会の相談員を通して教えられることになる。
  2. 月別相談件数:20年度では9月が最多で10.1%。コロナ禍自粛の影響か、4月、5月は例年に比べて少なく、6月に増加傾向を示している。年度によるが、概して7月、8月が多い傾向にある。夏期休暇の影響だろうか。
  3. 相談時間帯:OC/ECの特徴を反映してか、朝一番の電話相談が殺到する傾向にある。この7年度間を概観すると、10時台が24.4%と他の時間帯を圧倒している。緊急避妊については、一刻でも早く情報を得たい気持ちは理解できるが、OCも同様で「飲み忘れの対処法」などを問い掛けることになる。
  4. 相談時間:5分以内が62.0%。10分以内までを加えると93.1%で、「思春期・FPホットライン」に比べて相談時間が短いことが特徴である。科学的な情報を簡潔に伝えることで問題が解決するということだろうか。
  5. 相談者の年齢:20年度では、20~24歳が32.0%と最多、次いで25~29歳の24.6%、30~34歳の15.2%と続く。OC服用者の年齢を反映している結果か、20歳代が56.6%となっている。以前に比べて、この年代が増える傾向にある。服用シート数:相談者の基本情報の一つとして聞いているが、20年度は、「3シート以下」が最多で33.8%、「4~12シート」が24.8%であった。服用し始めたばかりの女性にとっての「駆け込み寺」の役割を果たしていることがわかる。
  6. 服用目的:「EC・OCヘルプデスク」は「ラベルフィーユ」「ファボアール」服用者からの相談が90%近くに上っていることから、20年度を見ても「避妊」が77.3%であった(複数回答)。
  7. 相談主訴の年次推移をみると、以前は「服用方法」「飲み忘れた場合の対処」「薬物相互作用」「周期調節」「避妊効果」などが上位にあったが、直近20年度では、「飲み忘れた場合の対処」「服用方法」「薬物相互作用」「マイナートラブル」の順であり。ECやOCの普及と合わせて、相談内容が多少変化している(表2)

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「東京都不妊・不育ホットライン」25年度間で15,307件

 1996年度から東京都が開始した「生涯を通じた女性の健康支援事業」の一環として、本会が受託した「東京都不妊ホットライン」は1997年1月からスタートした。世間の注目を集めた相談事業ということもあり、1月7日の初日は3千を超えるアクセスがあり、相談室はさながら戦場と化していた。もちろん、これに応えることができるはずもなく、1月、2月、3月の間に受けることができた相談件数は281件となっていた。あれから25年が経過したが、この間に受けた相談総件数は15,307件。最近では、不妊治療施設が個別に相談事業を開設していることもあり、相談件数は減少傾向にあることは否めない(図2)

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  1. この25年度間を概観すると、女性からの相談が91.9%、男性は8.1%であったが、2008年度以降は男性の相談割合が10%を超え、20年度には14.5%となるなど、男性割合が増加傾向にあることが最近の傾向である。
  2. 月別相談件数:おしなべて月々の相談件数は7~9%で平均化している。20年度については、8月、9月、1月、3月が10%を超え、4月、5月が5%台となっている。メディアなどでの不妊関連記事などが影響を及ぼしている可能性を否定できない。
  3. 相談時間帯:毎週火曜日の午前10時から午後4時までの相談ということもあり、一週間を待ちきれずに10時オープンとともに電話をかける方が多いのだろうか。20年度についても、10時台が25%を占めていることからもうなずける。
  4. 相談時間:20年度は相談件数が440件で、平均相談時間21.2分(標準偏差13.7分)。最長68.0分を記録した相談もあった。25年間では平均24.0分(標準偏差15.1分)。過去には2時間近くの相談が行われたこともあった。
  5. 相談者の年齢:20年度では、相談者の平均年齢は36.5歳(標準偏差5.6歳)。59.0歳が最年長であった。年々、平均年齢が上昇する傾向にある。
  6. 相談者の住所地:「東京都」と冠が付されていることもあり、20年度では全体の80.9%を東京都が占めている。1996年度の開設から2004年度までは、その割合が40%未満であったことを考慮すると、同様な相談施設が全国に広がってきたことを物語っている。
  7. 相談者の職業:不妊治療を受けやすい環境が徐々にではあるが整ってきていることを相談者の職業分布から知ることができる。20年度は、「フルタイム」が47.8%と最多、次いで「家事専業」33.9%、「パート」11.9%、「その他」6.4%の順(図3)。以前は仕事を辞めないと治療が受けられないかのような風潮があったが、最近では、仕事帰りに「採卵」「人工受精」「胚移植」などが可能な施設が増えていることなどが影響しているのだろうか。
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  9. 情報源:ここ25年度間を概観すると情報源は大きく変化していることが一目瞭然となっている。1996年度から10年間ほどは「新聞」「雑誌」から電話番号を知って相談してくる者が大半であったし、2000年度までは「インターネット」の選択肢さえなかった。今では、「インターネット」が中心で、20年度には78.9%を占めるまでになっている。
  10. 相談主訴:前半(1996~2000年度)、後半(2016~2020年度)に分けて、「知りたい情報」「治療について」「治療外のこと」について、相談内容がどのように変化しているのかを探った(表4)。なお、相談内容を踏まえて、これらの項目に該当する場合には、それぞれの項目の中で最も近いものをひとつ選択することとしている。従って、「知りたい情報」から1つ、「治療外のことから」1つ選択するも、「治療について」は該当しないこともある。これによれば、「知りたい情報」では、前半では「病院情報」や「検査」が主流であったが、後半になると「体外受精/顕微授精」「不育症」などが上位を占め時代の変化を感じることとなった。前半はゼロであったが、後半に数値が並ぶのは、時代の要請に応じて相談表の選択肢に加えた項目である。例えば、「助成金について」は2013年度から加えている。

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「コロナ禍における第一次緊急事態宣言下の日本人1万人調査」など厚労科学特別研究事業を終えた

 2020年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)研究として「新型コロナウイルス感染症流行下の自粛の影響―予期せぬ妊娠等に関する実態調査と女性の健康に対する適切な支援提供体制構築のための研究」(主任研究者安達知子日本産婦人科医会常務理事)の分担研究として「コロナ禍における第一次緊急事態宣言下の日本人1万人調査」「コロナ禍における緊急避妊並びに低用量経口避妊薬の処方件数の動向調査」「コロナ禍など自粛生活を余儀なくされた思春期等に対する性教育啓発資材の制作」の3つの研究に取り組んだ。(「家族と健康」5月号<第806号>参照

SDGsをメインテーマに「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー(SRHセミナー)」を開催

 家族計画研究センターが主導したセミナーには、「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー(SRHセミナー)」「女性医療セミナー」「女性保健医療セミナー」「緊急避妊コンシェルジェ薬剤師養成セミナー」などがあるが、SRHセミナーについては、「SDGsから見るリプロダクティブ・ヘルスの課題」をメインテーマに全国8会場で対面開催をした。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を第一に、入場に際しての体温測定、アルコール消毒にとどまらず、ソーシャルディスタンス・三密を避けるなどを心掛け、第163回から第170回までを終えた。参加者総数は490名(写真)。参加人数の制限をせざるを得なかったことから、ダイジェスト版オンライン配信を実施。これには252名が参加した。なお、本セミナーは1999年から開催しているもので、日本助産師会の後援、ジェクス(株)、あすか製薬(株)、MSD(株)、バイエル薬品(株)、富士製薬工業(株)、持田製薬(株)からの協力を得て開催しており、紙面を借りて深謝したい。
 バイエル薬品(株)と共催で開催している「女性医療セミナ-」では「女性ホルモン製剤の更なる普及に向けて私たちができること~OC発売20年を迎えて」をテーマに全国の産婦人科医・メディカルを対象にWEBで開催。2,401名が参加した。
 NPO法人HAPと共催した「緊急避妊ピルコンシェルジェ薬剤師養成セミナー」は、WEBでの開催であったが156名が参加した。

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★下記に本会家族計画研究センター・クリニック 2020年度の活動(クリニック事業実績、論文等事業実績)を掲載する。

2020年度 家族計画研究センター・クリニックの活動(PDF)



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