1979年4月に開催された第20回日本医学会総会。4年に1度開く医学の祭典では、2日目の4月8日に、「避妊の諸問題」についてのシンポジウムが松本清一(自治医大病院長、本会元会長)、石濱淳美(小山市民病院長)両名を座長に、①避妊をめぐる世界の現状(日本家族計画協会会長国井長次郎)、②男性避妊の問題点(東邦大学医学部助教授白井將文)、③ステロイド避妊の問題点(愛育病院長松山栄吉)、④IUDの問題点(岩手医科大学助教授利部輝雄)、⑤未来の避妊法(国立医療センター産婦人科医長我妻堯)などのテーマで研究発表を行っている(家族計画第302号)。
トップバッターとして講演した国井本会会長(当時)は、「人間は環境に適応して生きる生物である」という視点から社会の発展過程に合わせた出生パターンの変遷を示しながら、「避妊をめぐる世界の現状と問題点」を浮き彫りにした。この中で、国井は、「開発途上国では、ピルが一番ポピュラーで、IUD、不妊手術、コンドームなどが使われているが、アジアへ行くと「ピルはダメじゃないか」と妙に恐れられている。そういう不安のない、安くて効果の高い、安易に使用できる避妊法の開発が必要である」とし、従来と変わらずピル避妊法に対してネガティブな発言に終始している。
「ステロイド避妊の問題点」でも、日本ではピルは正式に認可されていない。従って、経口避妊薬の目的にしか使えないような低用量ピルは、日本では治験すら行われていない現状であり、日本はある意味では世界の潮流に遅れているとしながらも、ピルと血栓症、タバコとピル、高血圧などについて最近の知見を紹介し副作用が強調される論調となっている。血栓症については、ゲスターゲン(筆者注=黄体ホルモン製剤)よりもエストロゲンの方に問題が多いとし、ゲスターゲンの量には関係なく、エストロゲン量が50μgまでは安全だがそれ以上になると血栓症が増える可能性があるので、低用量化が求められていると強調。一方、和文文献から、血栓症を予測する臨床的な検査はないと結論づけている。もちろん、血栓症で死亡率が増えると言われても、ピルを飲んで血栓症が起こる危険率よりも、飲まないで妊娠して、結果として妊娠の合併症で起こる危険率の方がはるかに大きいと結んでいる。
ピルとタバコとの関係についても、喫煙者がピルを飲んだ場合に心筋梗塞が起こる頻度が非常に高く、特に40歳以上の女性がピルを飲んだ場合に注意しなければならないこと、ピルを止めるよりもタバコを止めた方が安全だとしている。