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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第26話>「なぜ中絶で後始末するのですか」

第794号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫

 前号は「家族計画」第246号から1974年の出来事を書いた。その後4年の月日が流れているが、第293号(78年8月1日)で「ピル」の文字を久しぶりに発見した。国立病院医療センター産婦人科の我妻堯医長が、所属しているWHOの研究班の成果を紹介している。以下、引用である。
***
 いわゆるピルが避妊薬の一つとして登場して以来、すでに20年近くを経過した。わが国は、依然として「副作用の恐れ」とか、「人体に有害」など、はっきりした根拠のない理由で、ステロイド剤の内服による避妊法を厚生省(当時)が公式には認めていない。
 世界の他の国で、政治的理由で家族計画そのものを認めなかったり(例えばアルゼンチン)リズム法しか認めていない国はあるが、国の政策の中で家族計画を認め、比較的自由に人工妊娠中絶を行うことができる状態にありながら、一方でピルを避妊の方法として公認していないのは、わが国だけであって、きわめてユニークな存在といえよう。
 人口問題や母子保健の立場から家族計画、受胎調節を政府、民間団体が推進している国々では、先進国も途上国も避妊法といえば、ピルが第一に用いられていることは、海外の家族計画事情を視察した人なら誰でも知っている。そして「日本は何故、ピルを使ってはいけないのですか? 何故、失敗しやすい方法を指導して、中絶で後始末するのですか?」という質問を受けた人も多いはずである。(中略)
 ピルが開発され、暫(しばら)く経過した後に、英国、ついで米国から、ピルに含まれるエストロゲンは、血液の凝固能を推進する働きがあり、ピル内服者の間に、静脈血栓症とそれに続く肺塞栓、脳血栓などの発症する確率が高くなることが発表された。これがマスコミを通じて誇張されて宣伝されたため、一時的には世界全体でピルの普及率が減少した。
 しかし、その後、これらの研究を追試したり、前方視的な調査を行ったりした結果、ピルによって血栓塞栓を起こして死亡する確率は、あまり高いものではなく、むしろピルによって確実に妊娠、出産を防ぎ得る利益の方が、避妊効果の低い方法を用いて失敗し、妊娠して出産したり中絶する危険性よりも、はるかに得であることが判明したために、その後も世界各国で盛んに使用される結果となっている。このように利益とリスクをバランスにかけて考えることができないのは日本だけである。血栓症の頻度は、わが国や東南アジアの女性では白人よりもはるかに少ないことが、産科系臨床の比較で、既に認められている。(後略)



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