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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第18話>國井長次郎の「経口ヒニン薬」論

第786号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫

 本会創設者の國井長次郎は、慶應義塾大学仏文科出身。その國井が、「家族計画」(1964年8月20日号)の「えふぴー散歩道ぷろむなあど」で「経口ヒニン薬」を話題にしている。結論から言えば、経口避妊薬の承認に対して時期尚早の立場をとっており、当時48歳の國井の発言が、本会のスタンスであったことは否めない。以下、原文のまま紹介したい。
***
 経口避妊薬の許可をめぐって日本でも議論がわきだした。家族計画連盟でも黙ってはおれず、朝野のお歴々の御意見をつけて厚生大臣に建言するまでになった。主な理由は二つある。この避妊薬をのんだ時の人体の障害。もうひとつは薬販売にどんな規制を与えても、どんどん一般の人に渡ってしまうにちがいない。この避妊薬許可については厚生省もずいぶん慎重で、五年も前から委員会をつくり、またかなり厳重なデータ規準を設けたが、最近はこの規準もパスした材料がそろった。これでは薬務局としては許可せざるを得ない破目に追い込まれたともいえる。しかし、反対論の方の言いぶんは、単に薬理学、医学上の研究検討が済んだとしても、それだけで許可になるべき性質のクスリではないという。
 まず経口避妊薬はクスリであるか、という議論さえとびだすしまつである。通念的にはクスリというのは疾病苦痛を治し、治癒させ、人体に健康をとりもどすものをさすが、経口避妊薬は逆に正常で健康な人体の機能を変化させ、自然作用を不自然作用にもっていくものなのである。いままでの避妊薬は人体しぜんの機能はそのままにして、局所に適用するが、これは全身適用である。ここらが薬という通念からいってもおかしなものだ。
 低開発国で人口が過剰でどうしようもない国とか、文明国でも宗教や法律の上で、避妊も不自由、中絶は厳禁という国では、このクスリの使用は、それだけに意味がある。けれども避妊についても中絶についても全く自由である日本が、何を好んで、この薬を用いなければならぬ理由があるのか。
 かつて、生ワク問題では尻ごみばかりしていた役人さんが、こんどの避妊薬では乗り気(?)になっているのも妙な話。どこに「尻ごみ」すべきであり、どこに「乗り気」になるべきか、そのピントが全く合っていない。それにこれは私の考えだが、営々十数年も苦労させてきた実地指導員の制度をどうするつもりなのか。彼女たちを政府は平気でふみにじるつもりなのか。許可するつもりなら、それによって当然おこってくる実地指導員を、どこかに変換させることも併せて考えてもらわねばならん。(後略)
(「家族計画」第125号、1964年8月20日号)



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