第1回自治体向けメンタルヘルス対策セミナー開催にあたり
「業務遂行レベルに着目したメンタルヘルス対策」について講師がまるっと解説!
講師陣
(写真左から)森 悠太(麻の葉経営コンサルタント 社会保険労務士)
高尾 総司(岡山大学大学院 疫学・衛生学分野 准教授)
前園 健司(前園綜合法律事務所 弁護士)
はじめに(高尾先生より)
私の所属する岡山大学の産業医グループでは、過去20年以上にわたり企業や自治体におけるメンタルヘルス対応の研究と実践を続けてきました。これは、メンタルヘルス対応を「医療的管理」の視点ではなく、人事総務や上司が行うべき通常の「業務的管理」の視点から整理し直したものです。導入済みの企業・自治体の担当者からは「従来のメンタル対応には戻れない」との評価をいただいております。
従来のメンタルヘルス対策の課題
従来のメンタルヘルス対策の多くは、上司に「うつ病」の知識・対応方法を教えるなど、「医療的アプローチ」に基づいたものでした。これらの問題点は、以下の3つが考えられます。
(1)対応を要する社員の「業務遂行レベル(仕事をさせられるかどうか)」ではなく「疾病レベル(病気かどうか)」
に着目しがち
「医療的アプローチ」をベースとする場合、就業規則よりも医療的判断が結果的に優越します。そのため、メンタルヘルス対応のかじ取りを社内医療職や主治医に任せるほかなく、人事総務担当者として明確な判断指針に基づき、自信を持って対応するということが難しくなりがちでした。
(2)もっぱら、対応を要する社員への配慮にのみ着目するため、上司や周囲の負担が考慮されない
上司はその社員の対応に追われ自分の業務が後回しになり、周囲もバックアップに追われるなど、部署全体のパフォーマンス低下に影響しているケースも少なくなく、その従業員を治すことが最優先するという「部分最適化」になりがちでした。
(3)リスクマネジメントの観点からも極めて脆弱
対応を要する社員は出社していても戦力としてはカウントできないような状況が起こりがちで、再び悪化してしまった場合の対処法にも困難が生じます。例えば、復職の場面で、人事や上司から見ればいまだ療養不十分と感じられる状況でも、主治医診断書の内容に基づきその従業員の要求通りに復職させてしまうようなケースがあります。このような場合に、早期に悪化した際の責任がどうなるかが事業者側としては気になるところですが、苦労して対応していても事業者側に法的な責任が生じてしまう※など、十分な検討なく「医療的」な考え方を職場に持ち込んでしまった結果、事業運営リスクに医療リスクを上乗せしたような、リスクマネジメント的には極めて管理不良な状況になりがちでした。
※全国労働基準関係団体連合会編「人事・労務管理シリーズ~過重な労働と時間管理編~」労働調査会、p.190-192、2006.
業務遂行レベルに着目したメンタルヘルス対策「高尾メソッド」とは
本メソッドでは、上記で解説した従来のメンタルヘルス対策の課題を解消すべく、「職場は働く場所である」の大原則に基づき、メンタル不調者の対応を特定の手順、書式シナリオなどを整えて適切な運用しています。大原則とは、①通常勤務ができているかどうかを判断する ②通常勤務ができていないと判断した場合は休ませる ③配慮的通常勤務は慎重かつ限定的に行う―となります。これらの原則を基に療養から復職支援までの手順・様式を提示、また面接シナリオも用意しているため、人事労務担当者が自動的に運用することができます。あまりここで解説してしまうとセミナーの楽しみが減ってしまうので(笑)、省略しますが、詳細は下記に参考資料を提示しておきます。
高尾メソッドによる自治体メンタルヘルス対策の最近の展開
高尾メソッドは決して「辞めさせるため」の手法などではなく、「しっかりと働いてもらうため」の手法であることは、自治体での運用が極めて整合的で有用であったことからも明らかですが、手順や様式だけが独り歩きすることで一定の誤解があったことも確かでした。地方公務員安全衛生協会による「復職支援」小冊子の発刊やメンタルヘルスマネジメント研修会などの機会を通じて詳細をお伝えすることで、こうした誤解も解消していき、直近の全国の自治体を対象とした調査ではおおよそ2割程度の自治体で、すでに認知されるようになっているようです。また、公開されたばかりですが、季刊誌「地方公務員 安全と健康フォーラム」第127号では、いわゆる「リハビリ出勤制度」を廃止した埼玉県志木市のインタビュー(廃止した真の狙い)を紹介していますので、ご覧になっていただければと思います。
また、他にも吉備中央町・玉野市・赤磐市でもモデルケールに加え、立川市などの自治体に採用いただいております。
各講師よりメッセージ
高尾先生
自治体職員のメンタルヘルス対応は、全体としてみると長期休業者が増え、休職・復職の繰り返しが課題であるという認識のようです。しかし、東京都立川市や埼玉県志木市などは、これらの問題に真正面から取り組み、一定の成果と感触を得ています(下記、参考資料のとおり)。
成果のある自治体は、メンタルヘルス不調者対応を医療的な考え方で対応せず、人事総務が一定の主体性をもって労務管理の視点から対応しています(平たくいえば産業医や保健職に丸投げにしないこと)。
果たして、メンタルヘルス不調者対応のような医学的にも複雑な課題を、労務管理的に取り扱うことができると思えるでしょうか。ここでは、発想の転換さえなされれば、それほど難しいことでないと断言しておきましょう。
なお、自治体は近隣自治体との協力・連携は日常的にも馴染みのあるものと考えますし、今回は、そうした相互協力と非常に相性のよい内容です。もちろん、自治体においては不可避とも言える担当者の一定期間ごとの交代についても、対策が後退することなく、うまく引き継いでいくことができることも分かってきています。
本メソッドの紹介は、断片的に研修会などで含まれているケースがありましたが、総論から各論まで徹頭徹尾、一貫した理論のもとに学ぶことができる機会は、今回初めて構築されてものです。
ぜひ、近隣の自治体の担当者ともお誘い合わせのうえ、地域的にまとまった参加も有用であることを申し添えて、私のメッセージとさせていただきます。
前園先生
皆様はじめまして。
私はこれまで、弁護士として、事業者側での労働法務に携わり、「予防法務」すなわち法的リスクの発生を未然に防止する支援に取り組んで参りました。
しかし、従来のメンタルヘルス分野における予防法務は、どうしても紛争を回避することばかりが前面に出され、復帰基準を労使の共通認識化して復帰を目指そうという視点や、元通りしっかり働けるように療養してもらうという休職制度の本来の趣旨が、後退してしまっていたように思います。
では、このような趣旨を達成しながらも、なおかつ予防法務を実践する理論や方法とは、どのようなものでしょうか?その答えを、本セミナーではお伝えします。
森先生
私は、日頃から各地の自治体を支援しておりますが、「高尾メソッド」は自治体におけるメンタルヘルス対応のさまざまな問題を解決し、職員全体のパフォーマンス向上を実現できる非常に有効な方法であると確信しています。
今回のセミナーは、自治体担当者を対象とした初めてのセミナーであり、「高尾メソッド」の総論だけでなく各論や実践までを網羅的に学ぶことができる唯一の機会です。「高尾メソッド」を理解し、実践できるようになることで、皆様の自治体で生じているメンタルヘルス対応の課題や困難な事例の解決に寄与することを目指しています。
皆様とセミナーでお会いできるのを楽しみにしております。
3人の先生が講演するセミナーはこちら
第1回 自治体向けメンタルヘルス対策セミナー高尾メソッドに関する参考資料はこちらから
★季刊誌「地方公務員 安全と健康フォーラム」業務遂行レベルに着目したメンタルヘルス対応(2022年8月号から連載中:全9回予定)
第122号 第123号 第124号 第125号 第126号 第127号
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