連載「視覚障害者としてできること、手助けしてほしいこと」

趙さん「視覚障害者の行政サービスがあることをもっと広めてほしい」

母子健康手帳は妊娠届の提出と同時に交付される、いわば全ての母親にとっての育児指南書である。しかし、視覚障害者は妊娠・出産・育児の情報にアクセスしづらいのが現状だ。今回視覚障害を持ちながら育児をしている母親3人に話を伺った。併せて点字版やマルチメディアデイジー版といった墨字(印刷された文字)によらない、母子健康手帳の大切さについても語ってもらった。

趙さん「視覚障害者の行政サービスがあることをもっと広めてほしい」
3世代家族での集まり(右から2番目=趙閏娥さん)
趙閏娥(チョウ・ユナ) 42歳(取材当時)
先天性視覚障害を持つ。12歳ごろまでは大きい物体が見えていたが、現在は光覚機能のみ。自身が韓国人であることを生かし、電話での韓国語会話レッスンを8年間継続中。中国人の夫とともに長女(中1)・長男(小4)の子育て中。

できることはやっていきたい

中国人の夫と結婚するにあたり、周りからは大変心配された。夫婦ともに視覚障害があること、母国ではなく日本に住むと決めたためだ。そして結婚してから、子どもを授かることについても周りからは止められていた。二人の生活で精一杯だろうし、障害が遺伝したらどうするのかという心配からだ。

しかし、小さい時から目が不自由で、外国での生活とこれまでの経験や苦労に比べれば、大変そうだとは思わなかった。自分たちの両親が日本にはおらず、頼みの綱は自分自身のみ。それでも子どもを育てることへの不安は特になかった。

子育ての上で特に気を配ったのは、「危険からどう守るか」だ。目で確認ができない分、感覚や勘を研ぎ澄ませた。子どもが入院した時など病院にいる間はガイドヘルパーが利用できなかったが、周りに協力をしてもらいながら対応をした。人間はその時の環境に合わせて力が出るため、やってできないことはないと実感している。

晴眼の2人の子どもにとっても、両親が視覚障害者ということは当たり前のことだ。中学1年生の長女からは、先日「ママは何でもできるから、不自由ないよね」とうれしい言葉をもらえた。自分たちの両親に頼り過ぎず、自分の力で試行錯誤しながら育てたからこそ、今の環境が特別なものではないと思ってくれたのだろう。

人に感謝する気持ちとプラス思考の大事さも伝えながら育てたこともあり、子どもたちはとても明るく育ってくれた。子どもたちは韓国人としてこれから日本という外国で生きていく必要がある。慣れ親しんでいてもこれから大変なことや落ち込むこともたくさんあると思う。どんなときもくじけない両親の背中を見ながら、育ってほしい。

最近は、夫の母国語である中国語の勉強を始めた。きっかけは子育てをしながら8年間続けてきた電話での韓国語会話レッスンだ。友人の勧めで始めたレッスンは、現在10人ほどの受講者がいる。レッスンでは単語だけではなく、よく使う言い回しや習慣・文化を教え、日常会話ができるよう工夫して行う。受講者の姿を見て、「私もやらなきゃ」と焦りを覚えた。現在、夫の両親とのやりとりは家族で唯一話せる夫の通訳が必要な状態。私が話せれば、コミュニケーションがスムーズにとれるようになる。外国語を学ぶのに視覚障害の有無は全く関係がない。これからどんどん吸収し、韓国語会話レッスンの受講者に負けないよう頑張っていきたい。

情報不足が招くこと

視覚障害を持つ両親が子育てをする上で困るのは、視覚障害者に対する行政サービスがあることすら分からない点だ。誰かが伝えてくれないと、自分自身の力だけでは情報を得られない。

全ての障害者が障害者団体に属しているとは限らず、当事者たちに情報が行き渡らないことも多い。夫が盲学校に勤めていて、障害者団体に属しているが、それでも知らないことはたくさんある。

母子健康手帳もその一つだ。最近になってから点字版があることを知り、大変ショックを受けた。いくらいい物ができていたとしても、利用するであろう当事者が知らないと何の意味もない。日々子育て家庭と接する自治体職員は、視覚障害者の子育てに関する情報を共有し、サービスを展開してほしい。そうすれば同じ視覚障害を持つ母親同士で情報を流すことができるし、サービスを利用する人が増えていくのではないだろうか。

また、情報は点字だけではなく音声ソフトなど音声からも大いに活用できるようにしてほしい。よく利用するのが、パソコンで電子書籍が読める「サピエ」(管理=日本点字図書館、運営=全国視覚障害者情報提供施設協会)や、韓国のアプリを使って図書館にあるいろいろな書籍を携帯で読む方法だ。携帯は常に持っているため、得られる情報はとても多い。点字に慣れていない人でも音声なら気軽に情報を得ることができ、いい情報を見逃すことを防げると思う。

視覚障害者は対象者数としては確かに少ないが、全くいないわけではない。見掛けたら声をかける、気に掛けてくれるだけでもとてもうれしい。そういった配慮がもっと広まっていってくれればと思う。

(2021年(令和3年)1月号(1面)より)

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