障害がある子の「波」の理解を促進!
コレが子育てと仕事の両立のカギ
~得意なことを見つけるための時間と空間「放課後等デイサービスkidsベース」~
本コーナーでは、地域でのつながりを大切にしながら子育て支援をしている方々のインタビュー記事をご覧にいれます! “わ”は、「輪」であったり、「和」であったり、「環」であったり…、また驚いたときの「ワ!」でもあったり…時にはみなさんをワッと驚かせるような事例も飛び出す楽しい記事をお届けします。
とも育てプロジェクト、インタビュー第7回目は、障害のある子どもを預かり療育支援などを行う「放課後等デイサービスkidsベース」(東京都品川区)を運用して、いる羽賀 恵さん(以下、恵さん)です。
幼稚園の先生、不妊治療やがん罹患経験を経て「子どもに関わる仕事を全力でしたい」を有言実行している恵さんの考える「とも育て」とは?
とてもパワフルな人柄と、子育てに関わる全ての人が生きやすい未来を見据えた恵さんのお話をぜひ、ご覧ください。
がん治療中に考えた「子育て」のかたち
子育てを全力でやるために誕生したkidsベース
――放課後等デイサービスを運用しようと考えたきっかけを教えていただけますか?
昔から子どもが大好きで、保育科の短大を卒業してからずっと幼稚園の先生をしていました。
20代中盤のころ、転勤族の夫との結婚を機に仕事を辞めていろんな地方に住んでいました。ちょうど子どもが欲しいと思って不妊治療も頑張っていたときでした。そんなさなか卵巣がんに罹患しました。
ステージⅡa期の卵巣がんで手術後に半年以上に渡る抗がん剤治療が始まりました。その治療期間が自分の生き方、やりたいこと、何が好きなのか見つめる時間になりました。
子どもが大好きなことは変わらず、「子育てをしたい」という気持ちがブレることはありませんでした。
でも、「産むこと」が「子育て」の絶対条件ではないと思うようになりました。
そして、kurashi合同会社をつくり、2022年から「放課後等デイサービスkidsベース」を始めました。
――幼稚園の先生から…会社代表へ! もともと起業には興味があったのでしょうか?
いえ、全く(笑)。
分からないことばかりで、大変でした。会社名も急遽、考えました。
私がやりたい「子育て」には会社であることが必須で、私自身が決定権をもつ会社の代表となる必要があったので頑張りました。
――kidsベースは、アート、運動、音楽、お出掛け…いろいろな楽しめる療育プログラムがありますよね。恵さんが手掛ける子育て空間「kidsベース」について簡単に教えてください。
現在、利用児童が約40名います。1日10人ぐらいがkidsベースで過ごしています。
日々、アート、運動、音楽、お出掛けなどいろんな体験を通じて成長を見守っています。
時には、専門家の先生を招いて保護者も参加できるイベントも開催しています。
放課後等デイサービスという特性上、障害レベルはさまざまなのでみんなが自分のペースで楽しめたり、コミュニケーションが広がったりする内容を意識して企画しています。
外出も積極的に行きます。電車で遠出もします。
確かに大変なこともありますが、社会の中で生きていく子どもたちには、公共の場に出ていく体験が大切です。もしかしたら、失敗したり、怒られたりするかもしれない。そんな時は、私たち大人が謝ります。
その姿を見ることで学んでいく。さまざまな実体験の繰り返しが成長につながっていきます。
障害がある子と過ごす中で、気付きが本当に多くあります。
名前を付けられないようなポジティブな連鎖反応があったりして…これ、子どもを研究している方、一緒に解明しませんか?
――kidsベースで発見したポジティブな連鎖反応、恵さん自身が大学院で研究すればいいのに! あと、定期的に駄菓子屋さんが来ていますよね?
大好評のイベントです。
訪問の駄菓子屋さんに来ていただき、お買い物体験をします。
kidsベース以外の近所の方も参加できるようにしているので、地域の人たちと交流できたり、放課後等デイサービスを知っていただける機会になっています。
「障害がある」というのは「困っていることがある」という考え方
その「困っていること」を社会や環境が理解すれば、もはや障害ではなくなり
子育てと仕事の両立がうまくいく
――保護者の相談も多くありますよね?
障害があるということは「暮らしの中で困っていることがある」ということだと思っています。
子どものケアが大変で、「仕事を辞めようかな」と相談に来た親御さんがいました。
でも、親が仕事を辞めて子育てに専念すれば良いわけではなく、「困っていること」を知り、その対処法を考えたり、親御さんのメンタルケアもして環境を整えていければ、子ども・親・みんなが生きやすくなると思います。
保護者の会社側が「お子さんの困っていること」を理解することも重要です。
例えば、障害のある子が元気に登校していっても、その子は鳥が苦手で道に鳥がいるだけ(ちょっとした何かで)でお家に帰ってくることがあります。そうすると、親が会社に遅刻する。でも、それは毎日ではなく、遅刻の数分を会社に許容していただけるだけで、お仕事が普通にできたりします。障害児を持つワーキングママ・パパにとって少しの会社の配慮が大きな心の余裕になります。
また、障害が目に見えない場合、「普通」に見えることで親御さんがつらく感じることもあります。
障害児の「困っていること」はそれぞれですが、それは障害の有無にかかわらず、相互理解によって、育児と仕事の両立促進になります。
kidsベースの次は、地域の子どもたちが趣味・特技の追求ができる時間と空間「品川ベース(仮)」
苦手なことではなく、好きなことを数える人生を教えたい
――今後やりたいことは具体的にありますか?
kidsベースのほかに「品川ベース(仮)」をはじめたいです。
趣味を極める、得意なことを見つける時間・場所です。
放課後等デイサービスの限られた時間内では、それを創りこむには足りない時があるな~というのがkidsベースを2年やって思ったことです。子どもたちには自分の好きなことや得意なことに、もっともっとじっくり向き合ってほしいのですが、時間の関係でストップになってしまうことがもったいないんです。
趣味や特技は社会に出たときに役に立ちます。
仕事に直結するという意味だけではなく、つらいことやうまくいかないことがあっても「私にはこれがある」という感覚は人生の武器になる。
できないこと、苦手なことを数えるのではなく、得意なこと、好きなことをたくさん見つけてあげたい。
本人が自信を持てることを探してあげることが大人の大きな役割ではないでしょうか。
――恵さんにとっての「とも育て」とは?…と質問するまでもなく、生き方がとも育てでした。
そうですね(笑)
いま、40名以上育てています。とっても楽しいです。
以前、幼稚園で働いていた時の子どもたちも成長してkidsベースに遊びにきてくれます。
この子たちも含めると…100人以上の子育てに関わっています。
kidsベースや品川ベース(仮)みたいな子育ての場所があることを知っていただき、みんなで子どもの未来を明るくしていける社会にしていきましょう!
――恵さん、ありがとうございました。
プロフィール
羽賀恵(はがめぐみ)さんkurashi合同会社代表
幼稚園教諭を経て、子育て世代になった20代後半に卵巣がん・抗がん剤治療を経験。
地域のお子さんや福祉に携わる職員に、幸せな居場所や社会を作りたいと思い、kurashi合同会社を設立。
品川区大井にて「放課後等デイサービスkidsベース」を運営。
大きな可能性を秘めた子どもたちと過ごす中で、学びを深め、社会に貢献したいと奮闘中。
毎日を楽しく、大切に。
参考:放課後等デイサービスkidsベース https://www.kidsbase.fun/
取材・文:大井 美深(おおい みゆき)
大学院で機能性食品素材の研究を経て、医療・ヘルスケア分野で情報サイトの企画・運用、広報業務を担当する。記念日を利用した公募企画、乳がん・子宮頸がんなどの患者支援団体との協力実績多数。エンターテインメントとヘルスケア情報配信のコラボレーションなどを得意とし、ヘルスリテラシーの向上に貢献する活動を幅広く行う。
※「マルトリ予防®」「とも育て®」は福井大学の登録商標です。