第5回 皆さんと出来ること ―「命に大きさはない」―
本連載では、この9月に開催する「第5回 災害時の妊産婦支援セミナー」講師 有本幸泰氏に、被災地支援を行う中で見聞き・体験したことを語っていただきます。 一度大規模な災害が起こると、避難所運営・救援物資等さまざまな支援が行われますが、そのさなかで、被災された方々が実は必要としているもの・求めていることなど、見落とされがちになってしまう点も織り込みながらご紹介いただきます。 減災に向けた地域づくりや災害への備えのご参考に、ぜひご一読ください。(編集部)
熱海市伊豆山地区土石流で亡くなられた方のご冥福と、安否不明の方々の早急の確認、お住まいの方の復興を願っております。
東日本大震災の津波でお子さんを亡くしたお母さんの声だった。
私は、この言葉の意味を最初は理解できなかった。だが、お子さんを亡くした親御さんの口からは同じ言葉が繰り返し聞かれた。
しかし、震災の情報をとるために、いろいろな媒体を見ていると、お子さんの命を「小さな命」という表現をする(すべてではないが)ことに気が付いた。
確かに体は小さいが、命の大きさは、受け取った側が決めることで、他人が決めることではない。命を授かってから、幸せを受け取った時間、思い出は他人にわからないほど大きいものである。きっとそのお母さんにとって、亡くなったお子さんから受け取った「幸せの時間」は誰にも測れないものだったのだろう。
第1回のコラムでも述べたが、私は被災地でずっと「偽善者」になっていた。「頑張れ」と言ってみたり、避難所にないジュースを飲んでしまったり、「人を助けている」という上から目線のようなボランティアであったことを猛省し、裏方に回った。
被災地、避難所で本当に必要なものは、耳かき、爪切り、子どもには2Bのえんぴつだった。
被災の地立場で考えて物資を用意することが大切だと学んだ。
同じ避難所で会えなかった親子、避難する場所は細かく決めておくことの必要性、家族での防災会議、地域全体での「地域診断」、普段の「予防」の重要性をお話しさせて頂いた。
――では、私たちはこれからどうしたらいいのか?
上記のお母さんの言葉の中に、答えがあるのであれば、被災者の方への「こころの寄り添い方」だと考えている。
当然、避難所での役割もあるが、被災者の皆さんにとって、保健師さん、助産師さん、それぞれの専門分野の方ほど頼もしく、安心できる存在はいないのだ。
9月のセミナーでもお話しするが、実際、イオン石巻が避難所になったとき、病院も閉鎖、お薬手帳もない、そんな不安な声を聞いて、被災者の方に寄り添ったのは、薬局の薬剤師さんだった。
私は、これからの課題は、被災者の方への「こころ」の対策ではないかと思うのだ。
被災者の方の「こころ」とどう寄り添っていくか、地域に信頼されている、上記のお母さんの「命の大きさ」をわかっている、皆さんであれば出来るのではないかと信じている。
連載の結びに
今回のコラムは、私の経験で恐縮です。災害は自然相手、防ぐことは出来ないかもしれませんが、JFPAを通じた皆さんとの「つながり」は誰かを「幸せ」に出来ると思います。
最後に、本コラムは最終回となります。東日本大震災から節目となる10年、私に役割があるのであれば、それは「語り継ぐこと」だと思います。
いろいろな災害への対策の充実は、すべて過去の災害からの教訓、それ以上に亡くなった方、被災された方の想いから生まれていると私は思います。
その意思を汲んで頂いたJFPAの皆さんに感謝するとともに、お読み頂いた全ての皆さまに感謝申し上げます。
9月にはセミナー、交流会(ZOOMでの追加講演)もございます。よろしければお会いできることを楽しみにしております。ありがとうございました。
2021年7月28日 有本 幸泰
【著者】有本幸泰(ありもと・ゆきやす)
現 一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会シニアアドバイザー 元イオントップバリュ株式会社マーケティング本部CSR/CSV担当 3・11東日本大震災の際には、被災後2日後に現地入り。小売業として物資配送を行い、 沿岸部中心に避難所を回る。 その後、日本全国の地域の皆さんと防災を考えた街づくりに携わる。 2021年9月10~17日にWEB開催される「第5回災害時の妊産婦支援セミナー」(主催:JFPA)で、特別講演「ボランティアから見た避難所の実際」で登壇する。
(本連載は全5回) 第1回:偽善者(2021年7月1日掲載) 第2回:2Bのえんぴつ(2021年7月7日掲載) 第3回:200m(2021年7月14日掲載) 第4回:「地域診断」から「家族づくり」へ(2021年7月21日掲載)