本連載では、この9月に開催する「第5回 災害時の妊産婦支援セミナー」講師 有本幸泰氏に、被災地支援を行う中で見聞き・体験したことを語っていただきます。 一度大規模な災害が起こると、避難所運営・救援物資等さまざまな支援が行われますが、そのさなかで、被災された方々が実は必要としているもの・求めていることなど、見落とされがちになってしまう点も織り込みながらご紹介いただきます。 減災に向けた地域づくりや災害への備えのご参考に、ぜひご一読ください。(編集部)
熱海市伊豆山地区土石流で亡くなられた方のご冥福と、安否不明の方々の早急の確認、お住まいの方の復興を願っております。
熊本地震で宇城の避難所へ行く途中に、大きなリュックを背負ったおばあさんに出会った。重そうなリュックには「非常用備蓄品」と書いてあった。私はおばあさんのリュックを運んであげ、一緒に避難所へ行った。
重すぎるな――おばあさんに中身を聞いてみると、備蓄品の食料、そして、2Lの水が3本も入っていた。
避難所に着くと、避難所の備蓄品の中には水があった。
「水があるなら持って来なくてもよかった」
そう言って、フラフラと座り込んだ。
私は、災害時に必要な備蓄品は「2種類」あると考えている。「自宅で待機して過ごす備蓄品」と「避難所へ持っていく備蓄品」だ。
東日本大震災以降、支援物資は「プッシュ型」になり、必要であろうと思われる物資は素早く送られ、又、自治体も、避難所の備蓄品をしっかりするようになった。
だからこそ自分にとって必要なものを吟味しなくてはならない。
以前イオンで働いていた際、東日本大震災の被害を受け、2011年4月1日に屋上でお店を再開した。その時にすぐに売り切れ、お客さまに何度も聞かれた商品がある。「爪切り」と「耳かき」だった。
商品関係を「水」「カップヌードル」「パン」などを考えた。確かにそれらも需要があった。しかし、被災地で必要だったのは、全く違った。色々調べてみたが、当時の阪神淡路大震災の被災者の方の声で、同じ需要があったことがわかった。情報はほとんど伝わっていなかった。 なぜ「爪切り」「耳かき」なのか、詳細はセミナーでお話しさせて頂くことにするが、私自身も「備蓄品」に関する考え方が変わった。
私の個人的な考え方ではあるが、とかく、備蓄品というと「モノを揃えなくてはいけない」ということで必死になるが、私が被災地で経験した一番の敵は「ストレス」ではないかと考える。 上記で、2つの備蓄品の話をしたが、「いつもの」というキーワードがある。災害時は何もかも違った環境になる、先行きがわからなく、不安で押しつぶされそうになる。そんな時にいかに「いつもの」というキーワードが心を救ってくれるか、私はそんな現場に多く出会ってきた。
西日本豪雨の避難所で子どもたちが欲しいものを紙に書いてもらった時の話である。
多くの子どもたちが「2Bのえんぴつ」と書いた。聞けば、夏休み中で、宿題があり、子どもたちが通う学校では「2Bのえんぴつ」が指定だったそうだ。「2Bのえんぴつ」は「いつもの」勉強道具で、それでないと叱られると言っていた。それが、子どもたちは大きな「ストレス」を抱えていることもわかった。
私はこの話を愛育クリニックでお世話になっている山崎亜子さんにお話しした。すると、全国のガールスカウト連盟にお声を掛けて頂き、多くの「2Bのえんぴつ」が集まった。秋篠宮妃殿下紀子さまからもえんぴつが届いた。すぐに私は西日本へ行き、避難所の方にお願いして子どもたちに配って頂いた。
――私はこの時の嬉しそうな子どもたちの顔を忘れられない。
被災地ではいつもの「当たり前」がいかに大切なのかがわかる。いつもの備蓄品も大切だが、それ以上に災害の際にどうしたらいいか、どこに集まるか、そんな「いつもの家族の会話」が大切ではないかと、今も考えている。
【著者】有本幸泰(ありもと・ゆきやす)
現 一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会シニアアドバイザー 元イオントップバリュ株式会社マーケティング本部CSR/CSV担当 3・11東日本大震災の際には、被災後2日後に現地入り。小売業として物資配送を行い、 沿岸部中心に避難所を回る。 その後、日本全国の地域の皆さんと防災を考えた街づくりに携わる。 2021年9月10~17日にWEB開催される「第5回災害時の妊産婦支援セミナー」(主催:JFPA)で、特別講演「ボランティアから見た避難所の実際」で登壇する。
(本連載は全5回)
第1回:偽善者(2021年7月1日掲載)
第2回:2Bのえんぴつ(2021年7月7日掲載)
第3回:200m(2021年7月14日掲載)
第4回:「地域診断」から「家族づくり」へ(2021年7月21日掲載)
第5回:皆さんと出来ること―「命に大きさはない」―(2021年7月28日掲載)