毎年、好評を博している本会「受胎調節実地指導員認定講習会」が、本年度も募集を開始しました。 このセミナーでは、第一線の先生方が集まり、専門性の高い講義を展開しますが、今回、「不妊」の講義を担当する藤原敏博先生からお話を伺いました。 ここにご紹介させていただきます。
フェニックス アート クリニック院長 藤原 敏博 氏
本研修会の講師を担当し今年で3年目。
「不妊などの専門的な知識がないと具体的な相談に乗ることもできないと思いますので、こうした研修会などを利用して知識を得るのは有意義だと思います」と語る。
――保険適用になるなど、不妊をめぐる動きが活発ですが、ご相談に来られる方が増えるなど、これまでと変わったことはありますか?
私の医院の看護師もよく、「自分はどうなんだろう、不妊ではないだろうか?」と不安に思っている人からちょっとした質問を受けることがあるようです。 不妊治療が保険適用になってまだ1年目ですので、今は初動とという状況ですが、経済的な理由からこれまで受けたくても受けられなかった若年の方にかなり門戸が開かれたようです。私のもとにも多くの方がいらっしゃっています。
若い方々が多く来院するようになったのは、中・長期的に見ればよい傾向だと思っています。 例えば、若い方のほうが妊娠しやすいのですが、ある程度年齢が上がり、収入が上がってから、と受診を待っていると、今度は妊娠しづらくなるというジレンマがあります。 ところが、保険適用によって、金銭的な敷居が下がったことで、若い方が多く来院するようになってきて、診ていると比較的妊娠されている方が多いんですね。
不妊症の治療――特に体外受精など――は、日本では40歳ぐらいの方が多く受けています。ただ、40歳代以上になると若い人に比べて妊娠しづらい傾向にあります。ほかの条件が全く同じでも、30歳代前半の人に比べると妊娠のしやすさが大体半分ほどになります。その状態で治療をすると、本人にとっても負担ですし、効率も悪くなってしまいます。 ところが、保険適用によって若い人が受けやすくなり、早い段階から妊娠できるようになると、治療を開始するタイミングを逸したことにより、将来、難治性の不妊症になってしまう可能性を減らすことが期待できます。 そうすると、今、40歳代ぐらいにある治療のピークを全体に下げることができますし、患者さんの目線からみても、負担も少なくでき、希望をかなえやすくなると思います。 医療経済的に見ても、何回も何回も治療を繰り返す分の負担を軽減することが期待できます。
すぐには効果が見られないかもしれませんが、5年後10年後、全体として好循環になっていくのではないか、と考えています。
――受胎調節実地指導員研修の受講者・本サイト読者のみなさんにメッセージをお願いします。
受胎調節や従来の性教育は、どちらかというと避妊や予期せぬ妊娠の予防、中絶しなければならないような事態を防ぐといった切り口のものが多かったように思います。 最近になって、不妊などのテーマが重要視されるようになり、妊娠をポジティブなものとしてとらえ、コントロールしていくためにも、正しい知識が必要だと感じています。 その観点を踏まえ、私が担当した講義では、一番基本的なところとして、妊娠がどのように成立するのか、受精や受胎がどのように起こるのかといったことを基礎として、正常な流れというものを詳細にいたるまで理解していただくことを心がけています。そのうえで、病的な状態である不妊がどういうことで生じるのかをお話ししました。 やはり正常があって、そこが損なわれて初めて異常である不妊症があるので、相談を受ける際も、両者の知識があって初めて具体的なアドバイスができる思います。 私の講義が、そういった受胎調節とは違った切り口でも相談などに応えられるようになるための基礎になって、受講された皆さんのプラスになってくれたらうれしいと思っています。
――有り難うございました。
<講師プロフィール>
フェニックス アート クリニック院長
藤原 敏博(ふじわら としひろ)
1961年生まれ。
東京大学医学部卒業後、米国ハーバード大学マサチューセッツ総合病院へ留学。
2006年、東京大学医学部附属病院体外受精センター長。
2008年、順和会山王病院リプロダクション・婦人科内視鏡治療センター長兼国際医療福祉大学大学院教授として10年間多くの不妊治療を成功させる。
2018年、フェニックス アート クリニック院長に就任。
現在、日本不妊カウンセリング学会理事長。
受胎調節実地指導員認定講習会では「妊娠の成立・受精・受胎」「不妊」および「実習」を担当する。