機関紙

<30>アサヒビール株式会社博多工場健康管理室 保健師 住德松子

2016年06月 公開
職域保健の現場から 30

女性労働者活躍推進と子育て支援の現状

アサヒビール株式会社博多工場健康管理室 保健師
住德 松子


ダイバーシティ推進と企業活動


 アサヒビールは1889年に創業し、スーパードライをはじめとしたビール類を製造販売している会社です。2000年代に入り酒類のみならず食品業界のM&Aを進め、現在では100社余りのグループ会社と、2万人超の従業員を抱える総合食品企業となりました。
 また、2011年には酒類・食品業界の競争のグローバル化など経営環境が大きく変革する中、国内外の成長領域へより大胆な資源配分を可能とするため、純粋持株会社のアサヒグループホールディングス(HD)に移行しました。
 HD化することで、各グループ会社との人事交流も盛んになりますが、一方で少子高齢化が進行する中、優秀な労働力を確保するため、14年にグループダイバーシティ推進室を設置しました。ダイバーシティとは、性別、年齢、障がいの有無、国籍などの違いにかかわらず、全ての社員がいきいきと働くための支援をしていくことです。
 アサヒグループHDでは、まずは女性労働者活用推進のための活動を展開しておりますので、簡単にご紹介したいと思います(図1)。

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女性労働者活躍推進のための諸制度

 女性労働者を取り巻く問題は、妊娠・出産による離職、妊産婦と胎児への健康影響、最近の話題ではマタニティーハラスメントなどの倫理問題など多岐にわたります。
 それらに対し国は、男女雇用機会均等法の改正や、働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定として妊娠中の健診時間の確保や、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止など、労働基準法の改正などの法整備を進めています。
 07年には事業者に対し、妊娠中および出産後の女性労働者が、医師等から指導を受けた場合は、「母性健康管理指導事項連絡カード」を活用し、妊娠中の通勤緩和や作業の制限休業等の措置を講じるよう定めています。


女性活用推進の取組
 ご存じのように、1992年に施行された「育児・介護休業法」により、子どもが1歳(必要な場合は1歳6か月)まで、父母のどちらかが育児休暇を取得できるようになりましたが、弊社でも男性社員の取得はごく一部で、女性社員についても制度上は最大2年取得できますが、第2子の保育園問題などもあり、1年程度の取得が大半です。
 しかし、男女社員ともに弊社の子育て期間の支援は手厚いものがあります。図2に示しておりますが、妊娠から学童期までさまざまな支援制度が準備されています。一部をご紹介したいと思います。
①妊娠期間と出産時の制度
 妊娠期間中は、通勤時間の変更と時差出勤、体調不良時の遅刻・早退が認められます。つわりなどの体調不良時は、母性健康管理連絡カードを提出し、つわり休暇を取得することが可能で、男性社員は配偶者の出産時に特別休暇を5日間取得することができます。
②育児休業の制度
 育児休業は男女ともに最大2年間取得できます。休業中はスムーズな職場復帰と豊かな育児生活を支援するため、会社パソコン貸与およびインターネット職場復帰支援プログラムのサービスを受けることができます。
③子育て期間の支援
 育児休業から復職した場合でも1歳未満の子を育てる女性社員が申し出た場合、1日に30分×2回(計1時間)の就業時間が免除されます。子どもが小学校を卒業するまでは、男女問わず、1日に最大2時間の就業時間が免除されます(3歳までは有給)。
 また、男女問わず1年間に子ども1人当たり10日間(最大20日間)を、年次有給休暇とは別に「子育て休暇」として取得できます。
④女性の復職支援「ウェルカムバック制度」
 女性労働者が、結婚、妊娠、出産、育児、家族の看病・介護、配偶者の転勤などの理由で退職する場合、退職時に申請しておけば、後日再就労が可能となる制度です。

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今後の課題
 このような手厚い子育て支援は女性労働者だけではなく、男性労働者にも働きやすい企業となり、社員の離職率を低下させることにつながります。アサヒグループHDは、昨年、2012年に続いて、経済産業省と東京証券取引所が、女性活躍推進に優れた上場企業を選定する「なでしこ銘柄」に選ばれました。
 しかし、16年4月1日から、労働者301人以上の大企業は、女性の活躍推進に向けた行動計画の策定などが新たに義務付けられ、弊社でも課題分析したところ、労働者の比率や勤続年数、残業時間に男女差は見られませんでしたが、唯一国の目標に届いていない課題として、女性の管理職の比率が5・35%と低いことが挙げられました。
 全産業平均(4・8%)は上回ったものの、目標目安の20%には程遠いため、女性役員登用の目標に向け社内啓発・育成・登用体制を整備するため、21年までにアクションプランを設定し、さらなる女性労働者活用推進に努めていく予定です。

***
 職域の保健師さんは、このような企業の取り組みが円滑に進むよう、従業員の個人対応はもとより、組織全体の労働環境に配慮し、人事・労務等と連携した活動を行っています。本連載では、今後数回にわたり、職域での就業・育児支援についてご紹介します。

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