<27>小規模事業場における産業保健活動 株式会社惠優 柴戸美奈
職域保健の現場から 27
小規模事業場における産業保健活動
株式会社惠優 柴戸 美奈
はじめに
私は現在、福岡県久留米市の株式会社惠優・グループホーム陽だまりにおいて、認知症対応型共同生活介護の仕事をしております。前職は、福岡県すこやか健康事業団で、保健師として27年間勤務いたしました。
保健師として採用された翌年(1988年)に労働安全衛生法が改正され、事業者に労働者の健康保持増進を図るために必要な措置を講ずるよう、努力義務が課せられました。単なる「健診機関」ではなく「企業外労働衛生機関」としての活動を期待されていたと思います。当時の顧客の多くは、専門の産業保健スタッフが確保できない中小企業であったことから、中小規模事業場における産業保健活動が私にとってのライフワークとなり、2005年からは労働者健康福祉機構福岡産業保健総合支援センターの相談員として、保健指導分野を担当いたしております。
高年齢労働者に対する産業保健活動
日々の仕事は、認知症高齢者に対する食事や排せつ、入浴介護、洗濯、掃除という生活支援の仕事です。2ユニット18人の認知症高齢者の介護施設で、従業員数は21人の小規模事業場です。
事業を引き継ぐために入社し、事業者の立場で自社の産業保健活動を行う機会が訪れましたが課題は山積です。創業11年目の当社の定年退職は65歳ですが、従業員の確保が難しい介護の現場には70歳を超えて現役で勤務している社員が4人おり、職場の平均年齢は58歳と高齢化が進んでいます。長期にわたって身に付けた豊富な知識や経験が心身機能の低下を補完し、若壮年者に劣ることなく活躍している面もありますが、労働能力と作業のミスマッチを防ぎ、快適に働けるよう、高齢者特有の能力の変化を考慮した作業管理、作業環境管理、健康管理は必要です(図1)。
高年齢労働者の感覚機能や回復能力の低下は著しく、動作の調整能力は大きく低下してきます。そこで作業環境整備として、現場では掲示物や回覧文書、作業手順書などの文字の大きさ、色への配慮が必要です。大きな段差には踏み台を設置する。照明は明るめに、電話の受信音は大きめに設定することで、高齢労働者がストレスなく作業ができるように工夫しています。
また、年齢が高くなるほど個人差が大きいため、労働者一人一人の健康問題や職務パフォーマンスを確認しながら「職場適応」「交替勤務の頻度」「健康診断の実施」「健診後の事後措置」を講じていかなければなりません。健康管理の場面では、従業員自身にも生活習慣を維持し労働能力を保つ努力をしていただき、自立した健康管理を行うことを求めています。また、介護職特有の労働衛生上の課題である「腰痛予防対策」も重要です。介護時の作業姿勢、動作についてリスクアセスメントを行い、リスクの回避、低減措置を周知していきますが、特に負担の大きな移乗介護は各入居者の残存能力に大きく影響を受けるため、継続的に労働衛生教育を進めていく予定です。
中小規模事業場の産業保健活動は、時間的・経済的余裕、法律の知識の有無に合わせて、事業主の産業保健活動への理念が重要な要因といわれており、「生涯現役」をスローガンに、積極的な産業保健活動を行っていきたいと考えます。
中小規模事業場への産業保健活動支援体制
私が相談員として活動している福岡産業保健総合支援センターは、産業医、産業看護職、衛生管理者などの産業保健スタッフ支援や、事業主などに対し職場の健康管理への啓発を行うことを目的として設置されています(図2)。
相談員は産業医学、人間工学、労働衛生工学、メンタルヘルス、カウンセリング、労働衛生関係法令、保健指導などの専門家が担当し、産業保健に関するさまざまな問題について相談に応じ、解決方法を助言します。また、産業保健スタッフを対象とした研修を開催しており、これらのサービスは全て無料です。
調査研究においては、成果物として産業保健活動に関する手引書やアクションチェックリストを作成し、事業者の自主的な産業保健活動の支援をしています。
そのほか、毎年9月の「全国労働衛生週間説明会」には産業保健に関する講演活動も行います。福岡県の事業場22万4833件のうち91・2%は従業員数50人未満の小規模事業場です。これらの事業場が独自で産業保健活動を行うのは難しいことから、これまでは郡市区医師会ごとに設置された地域産業保健センターが産業保健サービスを行っていました。利用者の利便性を向上させるために、昨年度からはワンストップサービスが開始され、福岡産業保健総合支援センターと連携を図り、従業員数50人未満の小規模事業場に対しても作業管理、作業環境管理、メンタルヘルス対策などの相談対応が可能となりました。
今後も小規模事業場の現場での体験を生かしながら、産業保健活動に携わっていきたいと思います。