<21>一つ、都市伝説打破 二つ、親・教師への教育 徳島大学医学部法医学教室(徳島県徳島市) 西條 良香
西條 良香 |
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その21
一つ、都市伝説打破 二つ、親・教師への教育
徳島大学医学部法医学教室(徳島県徳島市) 西條 良香
今なおまん延する都市伝説
現在、私は徳島においてフリーランスの産婦人科医と法医学領域での変死体の検案、ならびに性犯罪被害者の診察を行っている。一見すると共通点が見いだせないと思われるかもしれないが、これらは共に未来を創ることができる分野であり、私は非常にやりがいを感じている。
1994年に大学を卒業し、地元徳島で産婦人科教室に入局した当初、私は全く性教育に興味がなかった。その理由は「何を」「誰に」「どうやって」「いつ」が全く分からなかったからだ。しかし、翌年から勤務するようになった高知市立市民病院(現高知医療センター)での勤務医時代に、望まない妊娠をしてしまい、中絶を選択せざるを得なかった多くの患者の診察を行った。患者の世代はさまざまであったが、彼女たち(そしてそのパートナーや親族ら)に共通していたのは、避妊や性感染症に対して、恐ろしいほど無知であり、また根拠のない自信があることだった。
当時は、今ほどインターネットの環境が整備されておらず、性的な知識も、先輩、友人、知り合い、雑誌などからの耳学問(と言っては語弊もあるが)だけであった。当然、信じられないような避妊方法?もあった。腟外射精はもちろんだが、腟内射精後に、①炭酸飲料で腟内を洗う②ジャンプする―などの都市伝説である(もちろん、これらが無効なのは読者の皆さまはご存じのはず)。
しかし、妊娠した女性もその周囲の人たちもこれを信じていたのだ。それはなぜか? 成功例がいたからである。もちろん、その成功例を実際に体験した人が身近にいたのか、また聞きのまた聞きなのかは不明である。現在においても、常識的に考えておかしいことを本気で信じている患者がいる。
近年は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サイト)の発達により、このような都市伝説がさらに溢れ返っている。都市伝説を打破するには、頭ごなしに否定するのでは、効果がない。われわれ医学教育に携わる者が、その経験と知識を分かりやすく伝えなければならないのだ。
性教育を引き受けるのは誰か?
医学教育も日進月歩であり、子どもたちに教える内容も現実に沿ったものでなければならない。男女の営みを説明するのに、今さら雄しべと雌しべではない。やはり、性行為について説明する必要がある。
では、これを誰が行うのか? 本来であれば、親や教師がまず行うことになるはずだが、照れもあるせいか、押し付け合いになっているのが現状である。そして、いざ問題が起こったときには、責任も押し付け合いに...。
また、「君たちにはまだ早い」「そんないやらしいことを考える必要はない」と言って、最初から完全否定することもある。だが、考えてみてほしい。自分たちが子どもと同じ年齢だったとき、異性に対して全く興味がなかっただろうか? 部屋に張ったポスターや、雑誌から切り取ったファイルを見ながら、いろいろなことを想像したことはなかっただろうか?(はい、僕はあります! 当時、伊藤つかささんの大ファンでしたから!)
教育現場からは「保健室の先生がやればいい」という意見も出るだろう。しかし筆者は、この意見には反対である。同僚職員の話だと、どうしても内容がナアナアになってしまい、真剣味が薄れる恐れがあるという。
やはり、親や教師が現状を打破する鍵を握っているのだ。子どもたちへの教育をするには、都市伝説を(成功例も含めて)信じてしまい、そのまま大人になった親や教師への教育も必要なのである。
自治体において、子どもたちを対象とした性教育を行うだけではなく、親だけ、教師だけを対象にした性教育講座も開催すべきだと強く考える。
学会でのポスター発表の様子
【今月の人】 西條 良香
1994年、愛知医科大学卒。専門は、産婦人科と法医学。現在は、徳島大学医学部法医学教室非常勤講師を務めながら、フリーランスで産婦人科医、徳島県警嘱託医として変死体の検案などを行っている。デーモン小暮のファン。ハードロックとジャズのベースもプレイする。