機関紙

2001年度(2002年更新)

2009年06月 公開

平成13年度も緊急避妊に忙殺された1年であった。「緊急避妊」でweb検索(Yahoo)をかけると1千500件近くが抽出されるほどに、一般の緊急避妊に対する関心が日増しに高くなっている。各種電話相談のうち、緊急避妊実施施設の情報を求めた相談は1千712件、本会クリニックにはこの1年間に116人が緊急避妊を求めて来院している。
 全国の産婦人科医に呼びかけて構築した『緊急避妊ネットワーク』には1千200を超える施設が名乗りを上げた。クリニック独自のホームページも動き出した。緊急避妊で明け暮れてはきたが、日常診療、電話と面接相談、広報啓発、講演、「避妊と性感染症予防のためのスキルアップセミナー」の開催、「健やか親子21」の推進等々、多彩な活動を推進してきたクリニックの一年を振り返ってみよう。
(本会クリニック所長・北村邦夫)

相談を受ける北村所長
最近は緊急避妊相談が急増

 思春期の子ども達のために開かれた家という意味から『オープンハウス』と名付けられた私どもの施設では、毎週月曜日から金曜日まで、主として思春期を対象とした「FP(Family Planning)ホットライン」(一九八二年に開設)を、火曜日と金曜日、第2土曜日に限り、思春期女子を対象としたクリニック(一九八四年に開設)を開設している。このうち、「FPホットライン」には年間6千件近くの相談が寄せられ、クリニックには3千人近い若者が訪れている。一九九九年度から大々的に緊急避妊実施施設の紹介を開始したこともあって、「緊急避妊相談」が急増している。

五六三二件の電話相談

 この1年間に、「FPホットライン」には5千632件(男性3千244件、女性2千388件)の相談が寄せられている。このうち、20歳未満に限ってその相談内容の上位5つまでをまとめたのが下表である。
 例えば、母親から8歳の男の子のペニスが殊のほか小さいように思われるとの相談があれば8歳に、また19歳の男性からの包茎相談であれば19歳で分類されることになっている。全体としては、男性の場合は包茎、自慰、性器、射精の順であるが、10歳から15歳では自慰、16歳から19歳では包茎が話題の中心になっている。
 女性全体では緊急避妊相談が圧倒的に多く、ついで月経、妊娠と続くが、20歳未満に限定すると、17歳までは月経に関する相談が多く、18歳から19歳では緊急避妊が急増するという結果である。

表1 性の悩み・上位5項目(男性)
合計 10歳未満 10~11歳 12~13歳 14~15歳 16~17歳 18~19歳
3,244(件) 17 22 79 424 949 726
包茎 (19.0%) 性知識 (17.6) 自慰 (27.3) 自慰 (27.8) 自慰 (24.8) 包茎 (20.9) 包茎 (26.7)
自慰 (15.8) 性器 (17.6) 性器 (22.7) 性器 (15.2) 性器 (14.4) 自慰 (19.9) 性器 (15.0)
性器 (14.8) 射精 (17.6) 性知識 (18.2) 射精 (11.4) 射精 (14.4) 性器 (14.5) 自慰 (12.1)
射精 (10.8) 自慰 (11.8) 包茎 (9.1) 性知識 (7.6) 性交 (7.1) 射精 (10.2) 性交 (9.9)
性交 (9.6) 包茎 (11.8) その他   その他   性欲 (5.9) 性交 (7.9) 射精 (8.8)
表2 性の悩み・上位5項目(女性)
合計 10歳未満 10~11歳 12~13歳 14~15歳 16~17歳 18~19歳
2,388(件) 34 21 89 152 217 299
緊急
避妊
(43.6%) 自慰 (29.4) 月経 (66.7) 月経 (57.3) 月経 (30.3) 月経 (18.0) 緊急
避妊
(38.1)
月経 (11.2) 月経 (11.8) 精神
・心
(9.5) 性知識 (5.6) 精神
・心
(9.9) 緊急
避妊
(16.1) 月経 (11.0)
妊娠 (6.0) 病気 (8.8) 性器 (4.8) 問題
行動
(5.6) 性知識 (7.2) 妊娠 (9.2) STD (9.4)
STD (5.9) 精神
・心
(5.9) その他   病気 (4.5) 緊急
避妊
(7.2) 男女
交際
(8.3) 妊娠 (8.0)
その他   その他   -   その他   妊娠 (6.6) STD (6.9) 病気 (6.7)
情報源は男子が「友人」、女子が「学校」

 FPホットラインの存在を知るきっかけについては、男子の場合、全体としては「友人」が23.7%、「本/雑誌」が22.0%と高い。10歳未満については親が情報を得る場合が多く、「友人」や「本/雑誌」が目立つ。
 「友人」を挙げた年齢では、14歳から19歳までの層が多い。この世代の情報が友人間のコミュニケーションによって伝達されていることがわかる。10歳から11歳では「学校」が45.5%と、他を圧倒し、次に「友人」「本/雑誌」と続く。12歳から13歳では「学校」「友人」「本/雑誌」の順。
 一方、女子を見ると、全体では、「本/雑誌」が35.3%と高く、性情報の多くを本や雑誌から得ていることがわかる。
 これを年齢階級別に見ると、「学校」が第1位を占めているのが17歳までで、若年女子に対する学校教育の影響力の大きさを伺い知ることができる。これが、18歳を超えた段階から一挙に「本/雑誌」が増加するのは、彼らの置かれている環境を垣間見ることができる。
 男子と女子との違いは、言うまでもなく「友人」の役割である。男子では友人を情報源とする者が2割近くにも及んでいるのに、女子の場合10%にも満たない。「学校」を情報源とする例が男子ではローティーンまでだが、女子では10代全般にわたっているのも興味深い。

不妊ホットラインは既に五年を経過

 東京都からの委託を受けて一九九七年1月から開設した『不妊ホットライン』には、この1年簡だけで1千44件の相談が寄せられている。
 ここ数年、夫婦間以外の体外受精や代理母など倫理問題を含めた議論が沸騰している。まさに高度生殖医療の在り方について混沌とした事態となっている今日、開設以来5年を経た「不妊ホットライン」の5年間を振り返った。
 5年間の相談件数は5千411件で、その概要は以下の通りである。
<1>性別:男性259人(4.8%)、女性5千152(95.2%)。
<2>相談者の結婚の有無:既婚97.0%、未婚1.9%、同棲0.2%、不明0.9%
<3>結婚年数:5年~9年31.8%、3~4年16.1%、2~3年14.6%、4~5年11.8%、1~2年9.6%の順で、結婚10年以上が8.7%いた。
<4>相談時間:平均23.2分。10~14分18.3%、15~19分17.4%、5~9分12.4%、20~24分14.1%、25~29分10.8%、30~34分7.1%の順であり、60分を超える相談も69人(1.3%)あった。
<5>相談者の年齢:平均35.0歳。35~39歳38.9%、30~34歳24.0%、40~44歳21.9%、45歳以上7.6%の順。
<6>相談者の職業:家事専業60.2%、パート16.5%、フルタイム13.7%、その他3.3%
<7>住所地:東京都30.9%、神奈川県16.9%、埼玉県11.4%、千葉県8.9%、その他28.1%。
<8>ホットラインを知るきっかけ:本/雑誌53.6%、新聞25.5%、人から3.0%の順。
<9>相談をしてきた人:本人が最多で96.2%、相手1.1%、実母1.7%、実父0.2%の順。

最多は、病院の紹介を求める内容
表3 不妊ホットライン利用者の「治療外の悩み」
  1997年 1998年 1999年 2000年 2001年
自分自身のこと 16.6% 28.1% 25.7% 17.4% 13.6%
周囲との人間関係 6.5% 6.4% 6.9% 6.4% 7.5%
夫とのこと 7.1% 9.1% 6.7% 4.8% 5.5%
妊娠・出産・育児 0.6% 0.7% 1.5% 1.7% 1.7%
子どものいない人生 1.9% 1.3% 0.6% 1.0% 1.7%
養子 0.5% 0.0% 0.1% 0.4% 0.5%
その他 2.3% 1.2% 1.2% 1.5% 2.4%

<10>相談内容としては、「知りたい情報」のうち最も多いのが、「病院を紹介してくれ」等病院情報で15.1%、「検査について」9.1%、「体外受精/顕微授精」6.7%、「薬のこと」6.4%、「月経/基礎体温」5.7%など。
「治療のこと」の内訳は、「治療への迷い」25.4%、「不妊への不安」15.9%、「病院への不満」11.8%など。
 また、「治療以外の悩み」(表3)では、「自分自身のこと」が20.3%、「夫とのこと」6.6%、「周囲との人間関係」6.7%、「子供のいない人生」1.3%。
<11>不妊の原因:女性側25.8%、男性側10.7%、機能性不妊11.5%、双方7.2%、不明34.4%など。
<12>子供の有無:子供あり15.7%、子供なし81.5%。不妊治療の現状:治療中59.3%、治療なし33.5%、通院治療を検討中4.5%。治療期間:1年未満21.7%、2年未満35.5%、3年未満12.3%、4年未満16.1%、5年未満3.3%、5年以上9年未満6.5%、10年以上0.7%。

 慎重であることにマイナスはないが、日常起こるかも知れない症状を常にピルと結びつけてしまうことは、ピルにとってはきわめて不幸なことである。
 最近の傾向としては、発売当初にしばしば見られた漠然とした副作用への不安から、実際にピルを服用した体験を通して感じ取った異常、例えば「少量の出血が続く」とか「最所の頃に多少ムカムカした」などを訴える声が増えているのも特徴である。
 これらマイナートラブルについては、その頻度が決して少なくないこと、特に少量とはいえ思わぬ出血が、ピルの服用の中止につながるきっかけにもなることから、処方する医療機関での事前の情報提供が不可欠となっている。

二〇〇〇年度に開設、ピルダイヤル

 二〇〇〇年度にスタートした『ピルダイヤル』には、2年間で2千476件(二〇〇〇年度1千229件、二〇〇一年度1千247件)の相談が寄せられている。
 利用者の年齢を見ると、20歳から24歳がもっとも多く32.2%、ついで25歳から29歳の22.1%。20歳代での利用が5割を超えているが、19歳以下の若者たちからの相談も126件(10.1%)となっている。
 結婚の有無でみても、未婚者が全体の73.6%を占めていることから、ピルに対する関心が、性行動の活発な未婚の20歳代前半で高まっているのがわかる。相談者が『ピルダイヤル』の存在を知るきっかけは「本/雑誌」が23.9%とトップであるが、最近では「インターネットを通じて」29.9%、新聞23.9%などが目立っている。
 さらに、相談者のプロフィールを見ると、20.9%が現在服用中の者、11.3%が服用希望者であり、二〇〇一年度から『ピルダイヤル』に緊急避妊相談を加えたこともあり、『その他』が65%と高くなっている。
 その結果、相談内容を詳細に見てみると、「緊急避妊」に関する相談が53.7%と他を圧倒しており、ついで「ピル一般」6.4%、「副作用」(4.6%)、「服用方法」3.3%、「避妊効果」3.0%と続いている。

説明不足を補う役割

 具体的には、昨日からピルを飲み始めたが、一昨日ピンクのおりものが出て心配(32歳)。ピルを飲んで何日目から避妊効果が表れるのか(23歳)。ピルはいつまで飲んでいいか(37歳)。28日型のピルでは、いつから出血が起こるか(48歳)。ピルを服用中だが、出血が起こらなかったので心配(35歳)。服用法の説明もなしに、投げるようにピルを渡されショックを受けた(23歳)、など。
 また、ふくらはぎが痛く胸に圧迫感があったので、心配になって医者に相談したら、注意しながら飲んでと言われたが、どう注意して飲むのか(38歳)。ピルの正確な飲み方を教えて(多数)。2シート目に入るときの飲み方は(23歳)。ピルによる周期延長の方法は(27歳)。時差が起こった場合の飲み方(30歳)、などを挙げている。
 本来はピルを処方する医療機関での説明がきちんと行われていれば、このような悩みを私たちに打ち明けることはないはずである。『ピルダイヤル』は、医療機関の説明不足を補う重要な役割を果たしていると言える。

未だ消えないピル副作用神話

 わき腹が痛い(22歳)、太股が痛い(41歳)、ふくらはぎが痛い(多数)、足のむくみが気になる(33歳)、ピルを飲み始めてから胸の痛みが起こった(37歳)など、ピル服用後の諸症状を訴えて不安になり、ピルの服用を中止してしまうことも少なくない。
 これらは、血栓性静脈炎や心筋梗塞が疑われる症状と言えなくもないが、過剰な反応とともに自己判断でピルの服用を中止してしまうことは歓迎できない。ピル開始後1、2ヶ月で服用を中断してしまった女性は、生涯ピルによる避妊に強い拒絶反応を示すことにならないだろうか。
 しかし、ピル服用者を一方的に責めることはできない。ピル服用に際して医療機関から渡される「服用者向け情報提供資料」は、医師などが手にする薬剤添付文書と変わらないか、あるいはそれ以上の情報が満載されているのだ。しかも、ピル服用に伴う副効用の記載は全くなく、副作用ばかりが強調されている。
例えば「服用中の注意」に関しては、「頻度は少ないものの生命にかかわる重大な副作用として血栓症が表れることがありますので、次の症状・状態に気づいたときは必ず服用を中止して、すぐに医師に相談・報告してください。」の記述の後、「ふくらはぎの痛み・むくみ・手足のしびれ・鋭い胸の痛み...」など諸症状が列記されている。

大切な事前の情報提供

 慎重であることにマイナスはないが、日常起こるかも知れない症状を常にピルと結びつけてしまうことは、ピルにとってはきわめて不幸なことである。
 最近の傾向としては、発売当初にしばしば見られた漠然とした副作用への不安から、実際にピルを服用した体験を通して感じ取った異常、例えば「少量の出血が続く」とか「最所の頃に多少ムカムカした」などを訴える声が増えているのも特徴である。
 これらマイナートラブルについては、その頻度が決して少なくないこと、特に少量とはいえ思わぬ出血が、ピルの服用の中止につながるきっかけにもなることから、処方する医療機関での事前の情報提供が不可欠となっている。

期待がふくらむピル服用による副効用

 一方、ピルの副効用が話題になりはじめていることもあってか、「子宮内膜症で内服中だが、月経痛が軽くならない」(20歳)などを指摘する声も聞かれる。臨床の現場では日常茶飯時の会話ではあるが、『ピルダイヤル』(電話相談)ということもあり、「ピルを飲んだら月経痛が軽くなった」という声をわざわざ寄せてくれる人は皆無である。
 ただ、ピルの服用を考えている女性には、副効用への期待が膨らんでいるのも事実である。例えば、「ピルを中断したらニキビが気になりだした」(25歳)、「低用量ピルで内膜症を治したい」(42歳)、「月経不順を改善するためにピルを飲みたい」(24歳)、「旅行に行くのでピルで調節したい」(30歳)、「月経時の痛みを緩和できると聞いたが...」(21歳)、など。
 中には、相談員泣かせの難解な質問も少なくない。特に、ピルと薬剤との相互作用に関するものが多い。二〇〇一年度に受けた相談だけでも、めまいの治療薬、サプリメントとの併用、プラセンタエキス、抗うつ剤、膀胱炎の治療中、風邪薬、漢方薬、花粉症、歯の治療をした、甲状腺ホルモンとの併用など、多彩な薬剤が挙げられている。
 原則的には、抗結核薬など長期間の治療を要する薬剤との併用が問題であって、風邪薬との併用など短期間治療については心配に及ばない。
 不安であれば『7日間ルール』(心配な期間プラス7日間は、ピルを服用しながらもコンドームなど他の避妊法を併用すること)を使うように回答しているが、日本人の薬剤への関心の高まりを感じさせる。
 しかし、これとて、こと『ピル』に限ってなぜこれほどまでに神経質になるのかの感は否めない。

表4 新規にカルテを作成した患者の主たる臨床診断
全体 100.0 280
緊急避妊 32.5 91
続発性無月経 18.2 51
緊急避妊以外の避妊 17.5 49
月経困難症/子宮内膜症 6.8 19
月経周期異常・持続日数異常 5.4 15
異常なし 3.6 10
機能性出血/不正性器出血 2.9 8
性感染症 1.8 5
原発性無月経 1.4 4
PMS 1.1 3
妊娠 0.7 2
性感染症以外の感染症 0.4 1
奇形 0.4 1
にきび/多毛 0.4 1
外陰部/乳房腫瘤 0.4 1
(1)~(10)以外の疾患 0.4 1
月経移動 0.4 1
上記以外の婦人科疾患 0.0 0
その他 6.1 17

新規来院者、三割が学校からの紹介

 毎週火曜日、金曜日、第二土曜日にクリニックを開設しているが、この1年間の初診患者は375人、累積患者は2千603人となっている。
 クリニックで、初めてカルテを作成した患者についてみると、15歳から19歳が43.8%と最も多く、ついで20歳から24歳で28.1%、15歳未満が14.6%、25歳以上も13.5%いた。この年齢層を反映してか、大学生が32.5%、社会人が24.3%、高校生が22.9%を占めていた。
 「思春期外来」を銘打って開設しているクリニックではあるが、緊急避妊、ピル、子宮内避妊具の提供なども加わって、随分と様相が変化してきている。10年前には中学生であった女性が、社会人となってピルの処方を求めて来院することも珍しくはない。
 クリニックを知るきっかけについては、29.3%が学校、新聞・雑誌・テレビ21.4%、インターネット17.1%、友人の紹介13.9%、医療機関からの紹介4.3%と続く。特に10歳から14歳の57.1%、15歳から19歳の48.5%が学校からの紹介で来院しており、保健室の二次相談的な役割を果たしている。
 新規来院者の主訴は、その4割が緊急避妊であり、無月経17.5%、避妊目的11.8%、月経周期などの異常11.1%などであった。主たる臨床診断を年齢階級別に分類したものが表4である。

クリニックホームページ

 昨年度は、クリニック独自のホームページ(www.jfpa-clinic.org)を立ち上げた。有名な漫画家.伊藤理佐さんの協力を得て制作したサイトには、「クリクリ、クリニック」という四コマ漫画が連載され、好評を博している。是非お立ち寄り下さい。

 

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