2007年度(2008年更新)
家族計画研究センターがスタートしてから一年。名折れにならないように努めたつもりではあるが、果たしてどこまで実績をあげることができたか。武谷雄二東京大学医学部教授を主任研究者とする厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「全国的実態調査に基づいた人工妊娠中絶の減少に向けた包括的研究」では、分担研究を担当し「人工妊娠中絶の減少要因に関する研究」に取り組んだ。前号(650号)で紹介した「世界の十代の避妊、中絶、出産等に関する現状調査」は、国際家族計画連盟の協力を得て行われ六十五か国から貴重な回答を得ることができ、今後のわが国における若者対策の在り方に大きな示唆を与えるものとなった。以下、家族計画研究センター・クリニック事業について報告する。
(本会常務理事・クリニック所長 北村邦夫)
電話相談件数は12,623件
センターでは「思春期・FPホットライン」「東京都・女性のための健康ホットライン」「東京都・不妊ホットライン」「ピルサポートデスク」「OCサポートコール」と五つの電話相談を行っているが、年間総件数は12,623件であった。以下、それぞれのトピックスをまとめた。
●思春期・FPホットライン
1982年、わが国における思春期相談の草分けとも言える電話相談がスタートし二十五年間が経過している。筆者が本会クリニック所長に就任したのが88年度から。以来二十年間に受けた電話相談は112,419件(男性68,916件、女性43,503件)となっている。
06六年度から相談件数の男女の割合が逆転し、07年度には男性2,246件、女性3,169件で女性が全体の58.6%を占めることとなった。ここ十年に限って男女からの相談内容を概観すると、男性では「包茎」が二割を超えてトップであるが、「包茎」「性器」「自慰」「射精」が上位を占めるのは10年1日、変化していない。女性では00年度に全国の緊急避妊処方施設を紹介する電話相談を開始したことに伴い、緊急避妊が全体の四割を占めるようになってきている。緊急避妊処方施設紹介件数は07年度は1,388件であった。00年度以来の紹介件数は7、837件となり、わが国における人工妊娠中絶減少に確実に寄与していると言えよう(表1)。
表2 「東京都・不妊ホットライン」12年間のまとめ(%)(相談件数10位まで) |
●東京都・女性のための健康ホットライン
東京都から委託されている電話相談のひとつである。07年度の相談件数は574件(「思春期・FPホットライン」のうち TEL:03-3269-7700にかけてきた者の総数)。病気(29.4%)、月経(13.8%)、妊娠(11.0%)、更年期(9.9%)、避妊(5.1%)などが相談の中心。
●東京都・不妊ホットライン
今でこそ不妊専門相談センター事業や不妊治療施設における不妊カウンセリングが全国各地で展開されているが、当クリニックが「東京都・不妊ホットライン」を開設したのが97年1月のこと。開設日初日には4千件のアクセスがあるなど記録的な出来事を経験している。
年間相談件数のピークは00年度で1,176件。07年度には半減し534件となっている。確かに、相談件数は年々減少傾向にあるが、不妊の当事者相談が売りになっていることもあって、件数には表れない深刻な悩みが寄せられている(表2)。
●ピルサポートデスク
ワイス(株)の協力を得て開設している低用量ピル相談のひとつである。2001年度からスタートしたこの電話相談は、ワイス(株)運営のお客様相談室の役割を担っている。そのため地域的な偏在も少なく、この7年間を見ても東京都が26.2%、神奈川県8.1%、埼玉県4.9%、千葉県4.2%、その他56.5%となっている。
95%を超える者が「患者配付資料」を情報源とし、「現在服用中」の女性からの相談が九割近くとなっている。
相談内容は、「服用方法」が22.9%、「飲み忘れた場合の対処法」16.3%、「副作用」11.4%、「薬物相互作用」10.6%、「避妊効果」8.8%が七年間のまとめ。07年度についてみると、それぞれ22.2%、16.5%、12.8%、10.2%、10.2%であり、同様な傾向が続いている。
相談時間帯については「10時台」が25%を超えるなど、悩みを解決するために開始時間を待ちかまえて電話をかけてくる様子がみてとれる。
●OCサポートコール
表3 「思春期FPホットライン」年齢階級別相談内容(2007年度)(%) |
図1 OCサポートコール相談件数の月別推移(2005年2月~2008年3月) |
バイエル薬品(株)の協力を得て行っている低用量経口避妊薬(OC)関連の電話相談である。わが国で服用可能な全種類のOCの服用者、服用希望者からの相談が殺到しており、相談件数の推移はわが国におけるOCの普及状況の指標ともなっている。この電話相談は2005年に開始したものであるが、以後2,075件、4.011件と増え、07年度には5.076件となっている(図1)。
相談内容を三年間について見ると、「服用方法」(19.1%)、「副作用」(17.1%)、「飲み忘れた場合の対処法」(13.9%)、「薬物相互作用」(10.8%)、「避妊効果」(8.4%)の順。07年度ではそれぞれ18.8%、18.1%、15.0%、10.2%、9.6%であった。
07年度の相談者の年齢分布は25―29歳が26.8%、20―24歳23.5%、30―34歳20.4%、35―39歳19.9%、40歳以上5.4%、19歳以下3.5%であり、20歳代が五割を超えている。
HPVワクチン治験、二年目を迎え脱落例なし
クリニックでは、日常の診療に加えてHPVワクチンの治験、緊急避妊ピルの医師主導型臨床試験を実施している。HPVワクチンの治験は、当クリニックで低用量ピルを服用中の女性50人をボランティアとして募り06年6月から開始している。既に七回となる来院を終え、その間、三回にわたるワクチン接種、子宮頸癌検診を含む各種血液・尿検査などを滞りなく進めてきた。
特記すべきことは、ボランティアの脱落例がない点である。二年間近くにわたっての脱落例ゼロは世界でも極めて稀だと思われる。その理由を筆者としては、・当クリニックでの人間関係が十分に築かれてきたボランティアが選定されたこと。・年齢が若いこともあって妊娠・出産などの計画が起こらなかったこと、・クリニックのスタッフ、特に杉村事務長との治験を超えた個人的な信頼関係が保たれていること、などを挙げることができる。
緊急避妊ピルの第三相試験も既に最終段階に入っており、速やかな承認申請が待たれている。当クリニックでも、05年3月30日に「医薬品輸入報告書」を提出し、「医師個人使用」との目的で厚生労働省関東信越厚生局薬事監視員より承認を得て入手したノルゲストレル単独剤(Nor-Levo R)の使用経験を重ねている。ちなみに、07年12月末までに当クリニックに緊急避妊を求めて来院した女性は1,011人となっている。
診療活動、患者数はやや停滞
07年度の診療実績をみると、毎週火曜日・金曜日と第二土曜日に開設している婦人科には延べ1,922人(初診207人、再診1,715人)が、月一回開設している泌尿器科(「手術をしない明るい包茎外来」)には96人、精神科には19人で合計2,037人が訪れている。筆者が1988年4月に赴任してからの来院者総数は46,453人を数えたことになる。年間の患者数が減少しているのは、患者の大半を占めている低用量ピル服用者の場合、三か月、六か月投与、中には13周期のピルを処方する例も少なくないことなどが影響していると思われる。
1984年に創設以来過去二十四年間、当クリニックで初めて診療録を作成した患者(実人数)5,870人について初診時の診断名をみると、続発性無月経・原発性無月経・月経困難症・月経周期異常など月経に伴うトラブルの診療が中心であった「思春期婦人科外来」から、「緊急避妊」「緊急避妊以外の避妊」などを主とした「家族計画外来」の様相を呈してきているのがわかる(表3)。
OC啓発セミナーに参加した産婦人科医・コメディカルは3,500人に
当クリニックが中心となって開催しているセミナー、07年度は「OC処方のためのステップアップセミナー」(後援=(社)日本産科婦人科学会、(社)日本産婦人科医会、共催=バイエル薬品(株))と「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー~伝えるための技術向上をめざして~」(後援=(社)日本助産師会、全国助産師教育協議会、協賛=あすか(株)、ジェクス(株)、(株)そーせい、(株)ツムラ、日本オルガノン(株)、バイエル薬品(株)、持田製薬(株)、ワイス(株))などがある。いずれも、学際的団体の後援ならびに企業からの協力を得て成功裡に開催できたことに対し、紙面を借りて心からお礼を申し上げたい。中でも、OC啓発セミナーについては東京(332名)、大阪(185名)の二か所で開催したが、これで過去二十回開催した本セミナーへの参加者総数は3,499名となった。